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炎の国の 8
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どれくらいの時間、泣いていたのだろう。
もう雷鳴は止んで、雨も小雨に変わっていた。
俺は洗面所に行って、涙でぐちゃぐちゃの顔を洗う。タオルで拭くと、気合を入れるように頬を両手で叩いて、鏡に映る自分を見た。
「思い出したよ…アル。アルに助けられたこと、炎の国の城で過ごしたこと、いろいろあったけどアルと愛し合うようになったこと…。俺を殺そうとした死神みたいな男は、渦に飲まれて川底に消えて行ったけど、どうなったんだろう…。俺を助けようとしたリオや兵達は…」
俯いて、左腕についた腕輪を右手でそっと撫でる。
「これ…探知の魔法が施されてる筈だけど、さすがにこっちの世界にいる俺は、探せないよね…。五ヶ月前に俺が向こうの世界に飛ばされたのは、死神みたいな男が魔法で呼び寄せたからだった。でも、そいつが俺を呼び寄せることは、たぶんもうない。だとしたら、どうすればアルのいる世界へ行ける?」
ブツブツと口に出して考えながら洗面所を出た時、ガチャリと音がして玄関のドアが開いた。
「わあっ!」
俺は、思わず大きな声を上げる。
真剣に考え込んでいたから、心臓が止まるかと思う程、驚いた。
「ふっ、大きな声だな。そんなに驚いた?」
颯人が、笑いながら鞄を床に置く。
俺は、玄関に駆け寄り、顔を拭いて持ったままだったタオルを颯人の頭に乗せた。
「颯人っ、びしょ濡れじゃん!傘、持ってなかったの?」
「…うん。だって今日降るって言ってなかっただろ?」
「じゃあ、止むまでどこかで待ってれば良かったのに…」
「うん。でも雷も鳴ってたしさ、奏が怖がってないかな…と心配で、走って帰ってきた」
俺にわしゃわしゃと髪を拭かれながら、颯人が話す。
「はあ?雷なんて怖くないっ。俺がいつ怖いって言ったよ?」
「言ってないけど、俺が勝手に心配したんだ。ごめんな?」
「……っ」
颯人の頭を拭く俺の手が止まる。
颯人が俺の手を掴み、「ありがとう」と俺を覗き込んで優しく笑った。
なんだよ…俺に優しくするなよ。優しいこと言うなよ。一度は俺を捨てたくせに、今更何だよ。俺には、愛する人がいるんだからな。どうやって戻ればいいのか、まだわかんないけど、そのうち彼の元へ戻るんだからな。だから…俺のことなんて、放っておいてくれよ…。
俺は、優しく見つめてくる颯人の目を見れなくて、ふいと顔を逸らせると、「颯人の着替え取って来てやるから、早くシャワー浴びろよっ」と言い置いて、颯人の部屋へと走り去った。
颯人の部屋に入り、ベッドの上に畳んで置いてある部屋着を持って振り向いた瞬間、何かにぶつかる。
「いたっ!…え?颯人?」
「奏…」
颯人が、びしょ濡れのスーツを着たまま俺を抱きしめて、ベッドの上に倒れ込んだ。
もう雷鳴は止んで、雨も小雨に変わっていた。
俺は洗面所に行って、涙でぐちゃぐちゃの顔を洗う。タオルで拭くと、気合を入れるように頬を両手で叩いて、鏡に映る自分を見た。
「思い出したよ…アル。アルに助けられたこと、炎の国の城で過ごしたこと、いろいろあったけどアルと愛し合うようになったこと…。俺を殺そうとした死神みたいな男は、渦に飲まれて川底に消えて行ったけど、どうなったんだろう…。俺を助けようとしたリオや兵達は…」
俯いて、左腕についた腕輪を右手でそっと撫でる。
「これ…探知の魔法が施されてる筈だけど、さすがにこっちの世界にいる俺は、探せないよね…。五ヶ月前に俺が向こうの世界に飛ばされたのは、死神みたいな男が魔法で呼び寄せたからだった。でも、そいつが俺を呼び寄せることは、たぶんもうない。だとしたら、どうすればアルのいる世界へ行ける?」
ブツブツと口に出して考えながら洗面所を出た時、ガチャリと音がして玄関のドアが開いた。
「わあっ!」
俺は、思わず大きな声を上げる。
真剣に考え込んでいたから、心臓が止まるかと思う程、驚いた。
「ふっ、大きな声だな。そんなに驚いた?」
颯人が、笑いながら鞄を床に置く。
俺は、玄関に駆け寄り、顔を拭いて持ったままだったタオルを颯人の頭に乗せた。
「颯人っ、びしょ濡れじゃん!傘、持ってなかったの?」
「…うん。だって今日降るって言ってなかっただろ?」
「じゃあ、止むまでどこかで待ってれば良かったのに…」
「うん。でも雷も鳴ってたしさ、奏が怖がってないかな…と心配で、走って帰ってきた」
俺にわしゃわしゃと髪を拭かれながら、颯人が話す。
「はあ?雷なんて怖くないっ。俺がいつ怖いって言ったよ?」
「言ってないけど、俺が勝手に心配したんだ。ごめんな?」
「……っ」
颯人の頭を拭く俺の手が止まる。
颯人が俺の手を掴み、「ありがとう」と俺を覗き込んで優しく笑った。
なんだよ…俺に優しくするなよ。優しいこと言うなよ。一度は俺を捨てたくせに、今更何だよ。俺には、愛する人がいるんだからな。どうやって戻ればいいのか、まだわかんないけど、そのうち彼の元へ戻るんだからな。だから…俺のことなんて、放っておいてくれよ…。
俺は、優しく見つめてくる颯人の目を見れなくて、ふいと顔を逸らせると、「颯人の着替え取って来てやるから、早くシャワー浴びろよっ」と言い置いて、颯人の部屋へと走り去った。
颯人の部屋に入り、ベッドの上に畳んで置いてある部屋着を持って振り向いた瞬間、何かにぶつかる。
「いたっ!…え?颯人?」
「奏…」
颯人が、びしょ濡れのスーツを着たまま俺を抱きしめて、ベッドの上に倒れ込んだ。
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