炎の国の王の花

看病 3

「痛みが引いてくるまで、ここで休んでてね。あ、それと、僕今からちょっと用事で離れるから、彼のこと見ててくれる？熱が上がってくるだろうし、目を離しちゃダメだよ？」
「はあ…え？俺が？」
「うん、よろしくね」


そう俺に言いおいて、医者はさっさと部屋を出て行った。
俺は、バタンと閉まった扉を見つめて呟く。


「見てて…って言われても、俺、目眩がして起きれないんだけど。なんか、変わった感じの人だよな…」
「そうだね。でも腕は良さそうだよな。ところでカナデ。俺もちょっと部屋を離れるわ。このことをすぐにアルファム様に報告しないといけないし。まあ、このベッドに寝たまま見てたらいいと思うよ？大丈夫だろ？」
「えっ？ちょっ…待って！アルには後で報告しても…」
「ダメだよ。そんなことしたら俺が怒られるからね。すぐ戻ってくるから、じゃあな」
「リオ！待っ…っ」


俺は、リオを止めようと身体を起こしたけど、くらりと視界が回って再びベッドに倒れ込む。固く目を閉じて深呼吸をしている間に、リオはさっさと行ってしまった。


「…リオのバカ。俺をハマトと二人きりにするなよ…。まあ、起きないだろうけど」


ブツブツと文句を言って、隣に目を向ける。
ハマトが、顔に汗を浮かべて、先程よりも短い呼吸を繰り返している。


「辛そうだな…。ていうか、あの医者、傷口に薬は塗ってたけど、熱が出るってわかってて、なんで熱冷ましの薬を飲ませてないんだよ…。俺も休みたいのに、気になって休めないじゃん…」
「んっ…！あっ…カナデ…」
「え？ハマト！」


独り言を繰り返していると、急に隣から名前を呼ばれて、驚いて跳ね起きた。
おかげで大きく目が回り、治まるまで目を閉じてやり過ごす。少し楽になったところで、ゆっくりとベッドから降りて、ハマトの傍に立ち顔を覗き込んだ。


「ハマト？気がついた？」
「あ…危ない…っ。カナデ…さまっ」


額から汗を流して、ハマトが苦しげに声を出す。
どうやら起きたわけではなくて、夢を見ているみたいだ。たぶん夢の中で、あの男にまだ襲われているんだろう。
俺は、「もう大丈夫だよ」と言いながら、枕元に置いてある布でハマトの汗を拭いてやる。
その時、いきなり布を持つ腕を掴まれて、驚いて固まった俺の身体を、ハマトが自分の胸に抱き寄せた。
強い力で引き寄せられて、気がつくと、俺はハマトの上に乗っかって、力強い腕の中に閉じ込められていた。


「ちょっ…。ハマトっ！離せよっ！」
「…カナデ…さま…」


ハマトの胸を叩いたり押したり、「離せ」と声に出したりしてみるけど、俺の背中に回された腕は、少しも緩まない。
ハマトも相変わらず目が覚めていないようで、気づいてくれない。
俺はしばらくもがいていたけど、横腹は痛いし目が回って気分が悪いしでひどく疲れてしまい、諦めてハマトの胸に頬をつけて目を閉じた。