炎の国の王の花

明樹

文字の大きさ
上 下
80 / 432

月の国 8

しおりを挟む
サッシャに手を引かれてバルコニーに出る。
ここは2階で、下を覗くとかなり高さがあって怖い。
ブルリと身体を震わせていると、「さあ行くよ」と、サッシャが俺の手を引いたまま、手すりに片足を乗せた。


「えっ!ち、ちょっと待っ…」
「しーっ!静かに。大きな声出したらダメだよ」
「ご、ごめん…」


サッシャが、繋いでない方の手の人差し指を鼻先に当てて、軽く俺を睨む。
俺は思わず謝ったけど、高い所が怖いのだから、叫んでしまうのは仕方がないと思う。


「大丈夫だよ。軽く着地出来るように、俺が魔法を使うから。カナデは俺に任せてついてきて」
「わ…かった」


俺は渋々頷いて、サッシャと同じように片足を手すりに乗せる。


ーーじゃあ初めからそう言ってくれよ…。アルファムも落ちていく俺を魔法で助けてくれたし、サッシャも同じようなことが出来るんだろうな。なのにバルコニーに出るなり飛び降りようとするんだから、そりゃあ怯むっつーの。


チラリとサッシャを見ると、まるで子供のように目を輝かせて笑っている。


「行くよ、カナデっ。目を閉じちゃダメだよ」


サッシャが、言うや否や俺の手を引いて手すりを乗り越え、身体が宙に浮いた。


怖くて叫びそうになる口を、慌てて掌で押さえる。
俺とサッシャの周りがポワリと白くなって、スローモーションのようにゆっくりと地面に着地した。


「カナデ、フードを深く被って。この先を行った所にある門で、俺の部下が待ってるから」
「部下?あ、兵士に成りすましてるって言う…」
「そう。この時間、門の見張りをしているんだ。もう一人の見張りに上手いこと言って、眠り薬入りの酒を飲ませてる筈だよ」
「へぇ…」


自分で賢いと言うだけあって、誰を傷つけることもなく、大騒ぎになることもなく、すんなり城を抜け出せそうだ。
まあ、これくらいの策は、誰でも思いつきそうな気もするけど…。


なるべく身体を縮こませて、月明かりが当たらない暗がりの中を進む。
広い庭や倉庫のような建物を抜けた先に、灯りが灯る門が見えてきた。
門の両端に見張りがいるらしいけど、一人は壁にもたれて眠っているようだった。


「サッシャ、あれ…」
「うん。上手く眠らせたみたいだね。立ってる方が、俺の従者のミケだよ」


サッシャが門に近づくと、見張りの男が機敏に片膝をついた。


「サッシャ様、ご無事で」
「まあね、ここまでは余裕だよ。でも、すぐに気づかれるかもしれないから、早く行くよ」
「はい。門を出て、一つ目の角を右に曲がった先にある建物に、帯同してきた部下が待機しております。すぐに参りましょう」
「よし。カナデ、早く」


ミケが、少しだけ門を開ける。
部屋を出る時からずっとサッシャに繋がれたままの手を引かれて、俺は前のめりによろけながら門の外へ出た。
ミケも出てくると、再び門を閉める。
そして俺とサッシャ、ミケの3人は、建物の壁沿いを早歩きで進んでいった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

白バイ隊員への強淫

熊次郎
BL
浅野拓哉は28歳の白バイ隊員だ。バイクを乗り回し、日々任務を遂行している。白いヘルメットとスカイブルーの制服が奮い立たせるは、仕事への情熱だけのはずたった、、、

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

不夜島の少年~兵士と高級男娼の七日間~

四葉 翠花
BL
外界から隔離された巨大な高級娼館、不夜島。 ごく平凡な一介の兵士に与えられた褒賞はその島への通行手形だった。そこで毒花のような美しい少年と出会う。 高級男娼である少年に何故か拉致されてしまい、次第に惹かれていくが……。 ※以前ムーンライトノベルズにて掲載していた作品を手直ししたものです(ムーンライトノベルズ削除済み) ■ミゼアスの過去編『きみを待つ』が別にあります(下にリンクがあります)

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王

ミクリ21
BL
姫が拐われた! ……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。 しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。 誰が拐われたのかを調べる皆。 一方魔王は? 「姫じゃなくて勇者なんだが」 「え?」 姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?

処理中です...