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壊れる心 3
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ヴァイスは少し後ろに下がると、身体を低くして一気に柵を飛び越えた。
静かに地面に着地をして俺を振り返る。そして乗れと言わんばかりに首を大きく上下に振る。
「…いいの?ありがとう…ヴァイス」
俺は、厩舎の外に置いてあった木の箱を持って来て、それを土台に背の高いヴァイスに何とかよじ登った。
ふぅ…っ、と大きく息を吐くと、身体を倒してヴァイスの首に抱きつく。
「ヴァイス…お願い。この高い塀を越えて、俺を外に出して…」
俺の言葉に答えるように、小さく鼻を鳴らしたヴァイスの首から身体を起こす。
すぐにしゅるりとヴァイスの背中から翼が生えて、2、3回羽ばたかせると、塀に向かって走りながら空へと駆け登った。
かなり上空まで翔んで軽く塀を越え、すぐに着地するのかと思ったら、暫く翔んで人家も疎らな街の外れまで連れて行ってくれた。
月明かりに照らされた広場に、ヴァイスがゆっくりと舞い降りる。
着地したヴァイスの首に再び抱きついて、俺は何度も頬擦りをした。
「ヴァイス、本当にありがとう。大好きだよ。俺さ…アルのことが好きなんだ。一緒に過ごすうちに好きになってた。だからこそ、婚約者がいるアルの傍にいるのが辛い…。アルに酷く扱われることが耐えられない…。ヴァイス…あのカッコよくて偉そうで、優しいのか冷たいのかよく分からない我儘な王様を、よろしくね…」
ヴァイスのたてがみを撫でて背中から飛び降りる。いつの間にか出ていた涙と鼻水を、上着のポケットに突っ込んでいた小さめのタオルで無造作に拭いた。
ヴァイスが俺の頬に鼻先を擦り付けてきた。俺が笑って鼻先を撫でると、身体を反転させて一気に空へと駆け上がり去って行く。
だんだんと小さくなっていくヴァイスの後ろ姿に、もう一度お礼を言う。
「アルにバレたら怒られるかもしれないのに…。本当にありがとう」
ヴァイスの姿が見えなくなると、俺はようやく広場から離れた。
これからどうしようか…と考えながら、月明かりが当たって影になっている建物の近くを歩いていた時だった。
建物と建物の細く暗い路地から、「カナデ様」と声をかけられた。
「だっ、だれっ!?」
俺は身体を硬くして、腰に括りつけた短剣の柄に手を触れる。
路地の暗がりから出てきた、俺と同じようなマントを被った男がフードを取って、「お久しぶりです」と頭を下げた。
「…あ、ナ、ナジャ?」
「はい。覚えていて下さって光栄です」
俺を自分の国へと連れ去ろうとした、あの傲慢なレオナルトの部下。
なんでこんな所にナジャが…という驚きと、この先のことを考えて不安になっていた時に、見知った顔に会った安心感で、一気に肩の力が抜けた。
静かに地面に着地をして俺を振り返る。そして乗れと言わんばかりに首を大きく上下に振る。
「…いいの?ありがとう…ヴァイス」
俺は、厩舎の外に置いてあった木の箱を持って来て、それを土台に背の高いヴァイスに何とかよじ登った。
ふぅ…っ、と大きく息を吐くと、身体を倒してヴァイスの首に抱きつく。
「ヴァイス…お願い。この高い塀を越えて、俺を外に出して…」
俺の言葉に答えるように、小さく鼻を鳴らしたヴァイスの首から身体を起こす。
すぐにしゅるりとヴァイスの背中から翼が生えて、2、3回羽ばたかせると、塀に向かって走りながら空へと駆け登った。
かなり上空まで翔んで軽く塀を越え、すぐに着地するのかと思ったら、暫く翔んで人家も疎らな街の外れまで連れて行ってくれた。
月明かりに照らされた広場に、ヴァイスがゆっくりと舞い降りる。
着地したヴァイスの首に再び抱きついて、俺は何度も頬擦りをした。
「ヴァイス、本当にありがとう。大好きだよ。俺さ…アルのことが好きなんだ。一緒に過ごすうちに好きになってた。だからこそ、婚約者がいるアルの傍にいるのが辛い…。アルに酷く扱われることが耐えられない…。ヴァイス…あのカッコよくて偉そうで、優しいのか冷たいのかよく分からない我儘な王様を、よろしくね…」
ヴァイスのたてがみを撫でて背中から飛び降りる。いつの間にか出ていた涙と鼻水を、上着のポケットに突っ込んでいた小さめのタオルで無造作に拭いた。
ヴァイスが俺の頬に鼻先を擦り付けてきた。俺が笑って鼻先を撫でると、身体を反転させて一気に空へと駆け上がり去って行く。
だんだんと小さくなっていくヴァイスの後ろ姿に、もう一度お礼を言う。
「アルにバレたら怒られるかもしれないのに…。本当にありがとう」
ヴァイスの姿が見えなくなると、俺はようやく広場から離れた。
これからどうしようか…と考えながら、月明かりが当たって影になっている建物の近くを歩いていた時だった。
建物と建物の細く暗い路地から、「カナデ様」と声をかけられた。
「だっ、だれっ!?」
俺は身体を硬くして、腰に括りつけた短剣の柄に手を触れる。
路地の暗がりから出てきた、俺と同じようなマントを被った男がフードを取って、「お久しぶりです」と頭を下げた。
「…あ、ナ、ナジャ?」
「はい。覚えていて下さって光栄です」
俺を自分の国へと連れ去ろうとした、あの傲慢なレオナルトの部下。
なんでこんな所にナジャが…という驚きと、この先のことを考えて不安になっていた時に、見知った顔に会った安心感で、一気に肩の力が抜けた。
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