炎の国の王の花

明樹

文字の大きさ
上 下
24 / 432

炎の国の城 4

しおりを挟む
肩にのしかかる物に息苦しさを感じて、俺は唸りながら目を覚ました。
すぐ目の前にアルファ厶の広い胸があり、がっちりと抱きしめられている。


ーーああ…だから息が苦しいのか。


そう思って、俺は少しだけアルファ厶の胸から顔を離し、空気を求めて顔を上げ深呼吸を繰り返した。
アルファ厶の腕の中で身体を動かして、ズリズリと這い上がる。
そしてアルファ厶の顔の位置まで移動すると、その端正な寝顔を見つめた。


ーーわぁ…、アルってまつ毛も赤いんだ…。わかってたけど、すごくかっこいい…。


たぶん、俺の顔はかなりだらしなくなっていたと思う。
アルファ厶の唇にキスをしたいと顔を近づけようとしたら、アルファ厶の瞼が開いて、緑色の目が俺を捉えた。


「あ…アル…」
「カナ…、もう起きてたのか?あんまり可愛い顔をしてると、昨夜の続きをするぞ」
「え…昨夜…?…あ!」


俺は途端に恥ずかしくなって、アルファ厶の胸に顔を隠す。
そうだった!昨夜、風呂場でアルファ厶とあ、あんなことを…っ!


「どうした?照れてるのか?ふっ、とても可愛いかったぞ。それに何も恥ずかしがることなどない」


俺の髪を撫でながら、アルファ厶が優しい声を出す。
でも、俺はどうしても顔を上げることが出来なくて、小さく首を振ってプルプルと肩を震わせた。


「ふ…、カナは可愛いな。おまえが怖くないように、大事に大切に触れるようにするから安心しろ」


アルファ厶の甘い言葉に、俺はそっと顔を上げてドキリとする。
緑色の目が、俺を真っ直ぐに見ていた。


ーーアルは、かっこよくてしかも王様だし、昨夜みたいなことは慣れてるのかな…。女の人はもちろん、男の人に対しても…。


自分で考えたことに胸が痛くなって、俺は、アルファ厶に気づかれないように、そっと胸に手を押し当てた。





「カナ、彼はリオと言う。シアンの部下だ。確かカナと同じ年齢だった筈だ。歳が近いと話もしやすいだろう。リオ、俺の大切なカナデだ。城の中を案内してやってくれ。朝にも言ったが、くれぐれも失礼のないようにな。カナに無礼を働くことは、俺に対して無礼を働くことと同等だと思え」
「はい、わかっております。カナデ様、俺はリオと言います。よろしくお願いします。では、行きましょうか」
「え…、あ、え…」


キョロキョロと、アルファ厶とリオの顔を見比べていると、眉尻を下げたアルファ厶に、スルリと頬を撫でられた。


「カナ、少しの間だけだ。留守にしていた間の仕事が溜まっていてな。俺の横にいてもらってもいいのだが、それではカナは退屈だろう?すぐに終わらせるから、その間、城の中を見ていてくれ」
「…うん、わかった。こういうお城って初めてだから、ゆっくりと見てくる。アルは俺のことは気にしないで仕事して」
「気にしないというのは無理だな。なるべく早く終わらせる。今朝、皆を集めてカナを披露したから失礼なことをする者はいないと思うが、何かあったらすぐに俺に言え。いいな?リオも、すぐに俺に知らせろ」


俺が深く頷くと同時に、後ろから「承知しております」とリオが答える。


「じゃあちょっと行ってくるね。アルは仕事頑張って」


俺の頬を包んでいた手をギュッと握って微笑むと、何度もアルファ厶を振り返りながら、リオと共にこの場を後にした。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない

すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。 実の親子による禁断の関係です。

処理中です...