ふれたら消える

明樹

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「ばあちゃん!青だけど」
「あら、久しぶりねぇ」

 優しい声に、少しだけホッとする。どうかそこに昊がいてくれと願いながら、口を開く。

「なぁ、母さんと昊、来てる?」
「え?来てないよ。今日来る予定なの?」

 望んでいた答えじゃなかったことに、肩を落とす。そしてますます不安が増してきて、胸がつかえたように重くなる。俺は苦しい胸から絞り出すようにして、言葉を出す。

「…そっか。わかった。急にごめんな」
「なあに?どうしたの?」
「いや…どうもしないよ。ばあちゃん、体調はどう?よくないって聞いたけど…」
「青にまで心配かけてごめんね。元気になってきたから大丈夫」
「ならよかった。でも無理しないで。じゃあ切るよ」
「青も身体に気をつけるんだよ。また遊びにおいで」
「うん」

 スマホを耳から離して電話を切る。そしてスマホをソファーに置くと、両手で顔を覆った。

「どこに行ったんだよ…くそっ」

 こんなことなら昊のスマホにGPSを設定しておけばよかった。昊が柊木と付き合い出した時に考えたけど、ホテルに行った事実を目の当たりにしたら立ち直れないと思ってやめた。でもこんなことになるなら…。
 呻き声をあげ、なんどもため息をついて、再びスマホを手に取る。そして夏樹の名前をタップして呼び出した。
 夏樹はすぐに出た。

「青、どうした?」
「夏樹…昊から連絡来てない?」
「来てないけど。なんで?」
「昊と連絡取れないんだよ」
「バイトじゃねぇの?」
「違う。今日は無い日だし。…たぶん、母さんが連れ出した」
「じゃあ買い物にでも行ってるんだろ」
「それも違う」

 助けてと言いそうになって、口を閉じる。俺達の問題に夏樹を巻き込んではいけない。でも、俺達のことを知ってる夏樹にしか、相談できない。
 スマホの向こうから、夏樹の優しい声がする。

「青、何があった?俺には何でも話せ。俺にできることならするから」
「うん…あのさ、俺、昨夜、昊を抱いた」
「そう…そうか。よかったな、青」
「そんなこと言ってくれるの、夏樹だけだよ」
「俺だけってことない。颯人もおまえと昊の味方だろ」
「うん…」
「それで?」
「たぶん、途中で母さんが帰ってきて…見られたんだと思う。母さんは、一度、俺と昊のことで悩んで、心を壊してる」
「そうか」
「だから、先に帰ってきた昊を連れ出して…」
「青、悪いことは考えるな。本当にそうなってしまうぞ。俺からも昊に連絡入れてみる。連絡取れたら言うから」
「うん、頼むよ」
「落ち着かねぇなら、俺ん家に来るか?」
「いや、昊が帰って来るかもしれないから、ここにいる」
「わかった、じゃあな」
「夏樹、ありがとう」

 通話が切れたスマホを眺めて、何度目かわからないため息をつく。苦しくて苦しくて、もう窒息しそうだった。

 
 
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