ふれたら消える

明樹

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 リビングに入って、もう一度「昊!」と呼ぶ。昊の部屋にも見に行ったけど、帰って来た様子もない。

「え…もしかして、まだ柊木といんの?揉めてるのか?」

 ブツブツと呟きながらリビングに戻り、荷物を床に置いてソファーに座る。昊のことばかり考えて失念していたけど、ようやく母さんもいないことに気づく。
 そういえば母さんの車が無かった。買い物に行ってる?こんな時間に?仕事が休みの日は、必ず午前中に買い物を済ませる母さんが?
 俺は少し考えて、母さんに電話をかけた。でも母さんも電話に出ない。急に不安になり、鼓動が激しく動き始める。
 …待って、もしかして、昨夜の行為を見られた?それで母さんは、先に帰って来た昊を連れ出してる?
 胸騒ぎがする。母さんが昊を連れ出して、説教をしてるだけならいい。でも母さんは、俺達の関係を知って、おかしくなった時期がある。あれから昊が柊木を彼氏だと紹介したから、ようやく落ち着いたんだ。なのに昨夜の行為を見たなら、ずっと騙されていたのかとショックだっただろう。どうすればいいのかと深く悩んだだろう。そして出した答えは…。
 俺は慌てて身体を起こし、三度みたび昊に電話をかける。でも出ない。母さんにかけても出ない。ヤバい。止めないと。でもどうやって?そもそも、車でどこに向かったんだ?
 恐怖で俺の指が震えている。震える指でスマホをタップして、父さんに電話をかけた。すぐに父さんの声が聞こえた。

「青か?どうした?」
「なぁ、母さんと昊がいないんだけど。どこに行くとか聞いてる?」
「いや。買い物に行ってるんじゃないのか?」
「二人で?違うと思う。なんだか胸騒ぎがして心配なんだ」
「ははっ、大げさだな。すぐに帰って来るだろう」
「父さん」

 父さんは軽く考えていたようだが、俺の低い声を聞いて、ようやく深刻な声になる。

「おまえは何を心配してるんだ?」
「…母さん、また情緒不安定になってる気がする」
「今朝は普通だったぞ」
「うん、俺もそう見えたけど…。なぁ、母さんが行きそうな所、わかる?」
「んー…、あっ、そういえば、あちらのお義母さんの体調が心配だから、近いうちに会いに行かなきゃと話してたな。だから実家に行ってるんじゃないか?」
「わかった。確認してみる」
「ああ、頼む。俺もなるべく早く帰るよ」
「うん」

 父さんとの通話を切ると、母さんの実家の電話を探してタップする。五回目の呼出音で、ばあちゃんが出た。
 
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