ふれたら消える

明樹

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 翌日、大学で神山さんに会わなかった。同じ講義があったはずなのに来てなくて、どうしたのかと思ったけど、まあ休むこともあるだろうと気にはしなかった。
 しかしその翌日も講義を休み、シフトがかぶっていたはずのバイトにも来なかった。
 さすがに心配になり店長に聞くと、風邪を引いたから休むと連絡があったらしい。
 神山さんは一人暮らしだ。一人でどうしてるのかと思ったけど、友達もいるし大丈夫だろうと安易に考え、バイトに戻った。
 夜遅くにバイトを終え、駅からの暗い道を歩いて帰る。
 昊はもう、家に帰ってるだろうか。確かこの曜日はバイトは無かったはずだ。帰ってたらいいな。話せなくてもそこにいると思うだけで気持ちが高揚する。だけど帰っていなかったら、柊木と会ってるのかと嫌な気持ちになる。どうか昊が家にいますようにと祈りながら角を曲がって、足を止めた。
 家の前に昊がいた。柊木と一緒に。悪い予感が当たった。二人は俺に気づいていない。しかも最悪なことに、柊木が昊に顔を寄せてキスしようとしている。
 咄嗟に二人から目を逸らしてその場を離れた。「くそっ」と口の中で悪態をついて、拳をにぎりしめる。
 家の前で何してんだよ!送り届けたならすぐに帰れよ!昊も昊だ。早く家の中に入れよ!
 二人に対して次から次へと怒りが湧いてくる。
 家からかなり離れた所で、ようやく足を止めたその時、スマホが震えた。
 
「…昊?」

 まさかとは思うけど、俺に気づいたのかと慌てて手に持っていたスマホを見ると、神山さんからのメールだった。
 昊じゃなかったことに落胆して、息を吐き出しメールを開く。

『青くん、今大丈夫?お願いがあるの』
「大丈夫だよ。風邪引いたんだってね」
『実はね、風邪じゃないの』
「そうなんだ。何かあった?」
『うん…私、ストーカーに狙われてるみたいで。誰かに見張られてるようで怖くて、家を出られなかったの』
「ストーカー?見たの?」
『うん…。でも顔がよくわからなくて』
「そっか。それでお願いってなに?」
『相談に乗ってもらいたいんだけど』
「いいよ。いつがいい?」
『明日休みでしょ?予定ある?』
「ないよ。じゃあ明日の十四時に駅前でいいかな」
『うん。ごめんね青くん…こんなこと頼んで』
「気にしないで。何かあったら怖いから」
『ありがとう。じゃあ明日』
「うん明日」

  一人暮らしなのにストーカーにつきまとわれたら怖いよな…とスマホを下ろして夜空を仰ぐ。
 昊と柊木のことで腹が立っていたけど、神山さんとメールしていたら少し落ち着いてきた。
 俺はスマホをズボンのポケットに入れると、柊木が帰ってることを願いながら、家へと歩き出した。

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