ふれたら消える

明樹

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 先生は課題を受け取ると、すぐに帰っていった。
 俺はリビングで昊を待っていたけど、三十分経っても帰ってこない。コンビニは家から五分の場所にある。その先のコンビニも十分はかからない。

「なんで帰って来ないんだよ…くそっ。やっぱり俺を避けてる?」

 自分の言葉に胸が痛くなる。ねぇ昊、そんなに俺が嫌い?もう仲のいい兄弟に戻れないの?俺のことを好きじゃなくてもいいから、嫌いにならないでよ…。
 誰もいない静かな家の中で、壁の時計の音だけがやけに耳について落ち着かない。
 俺はソファーから勢いよく立ち上がると、スマホを掴んで、靴を履くのももどかしく急いで玄関を出た。
 一番近くのコンビニまで早足で向かう。コンビニの周囲を見回してから中へ入る。ひと通り見て回ったけど昊がいない。じゃあこの先のコンビニか?と出て、走り出した。
 早く昊に会いたい。すぐに会えると思ったのに予想が外れて焦る。家で待ってたら必ず帰って来るけど、それすらも待てない。

「本当に、どこに行ったんだよ」

 次のコンビニに着き、ハアハアと息を切らしながら中を覗く。ここにも昊がいない。

「くそっ…どこを探せば」

 途方にくれて、前髪をクシャとかきあげた。そして振り向いた瞬間、こちらに向かってくる昊と目が合った。

「昊…」

 昊が無言で近づいてくる。無視されるのかと思ったけど、俺の前で立ち止まり見上げてきた。
 久しぶりに至近距離で見つめられて、俺の鼓動が早鐘を打ち始める。
 昊が俺を見てる。久しぶりに目が合った気がする。どうしよう。話さなきゃいけないことがたくさんあるのに、喉が震えて言葉が出てこない。早く何か言わないと、また昊が行ってしまう。俺の前から去ってしまう。

「あ…」
「なに?おまえも買い物?」

 俺の顔がくしゃりと歪む。やばい。嬉しい。昊が普通に喋ってくれてる。短い言葉だけど、すごく嬉しい。早く返事をしたいのに更に喉が震えてしまって、今声を出すと涙が出そうで、でも昊にどこにも行って欲しくなくて、考えるよりも先に手を伸ばした。

「え…?ちょっ…!青っ、何してんだよっ」
「昊…っ」

 ああ、昊が俺の腕の中にいる。可愛い。いい匂いがする。なんか怒ってるけど、拒絶はされてないから、離さなくてもいいよね?というか、もう離せない。
 しかし、すごい力で昊に胸を押されて、離れてしまった。
 嫌だ、離れるなと再び伸ばしかけた俺の手を、昊が握りしめる。そしてそのまま引っ張って、コンビニから離れて行く。
 
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