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途中で金井さんと別れ、数学準備室の前に来た。声をかける前に扉が開く。ずり落ちそうな眼鏡を指で押し上げながら、大神先生が「入って」とにこやかに言う。
俺が素直に中に入ると、後ろでガチャと鍵がかかる音がした。
俺は振り向き思いっきり嫌な顔をする。
「なんで鍵かけるんですか」
「森野との時間、誰にも邪魔されたくないから」
「はあ?気持ち悪いこと言わないでくださいよ。で?手伝ってほしいことってなに?」
「あー、おまえは相変わらずクールだよなぁ。俺の気持ちわかってんだろ?」
「何度も言ってますが迷惑です。それに犯罪ですよ?」
「ちっ、何かといやぁ脅しやがって。別に手は出さねぇよ」
「出さなくても嫌がってるのに言い寄るのは、セクハラになりませんか?」
「ならない。だっておまえ、俺のこと嫌いじゃないだろ?」
「さあ?」
「さあって何だよ」と不貞腐れながら、大神先生が机の上の書類をまとめ始めた。
担任ではないけど、一年の数学の授業を担当する大神先生は、生徒の間で人気がある。言葉遣いは荒いが、親しみやすく誰に対しても平等に接するから。でもなぜか、最初の授業の日から俺に執着している。廊下で会えば必ず声をかけられ、何かと用事を頼まれる。
何度目かの用事を頼まれた時に、先生が受け持つクラスの生徒でもないのに、なぜ俺にばかり用事を頼むのか聞いた。答えは先ほどの通り。俺に一目惚れしたらしい。マジかよと驚いた。
大神先生は先生になって三年目で若い。だからといって、九歳も下の、しかも同性に告白するか?でもまあ、俺は歳の差とか同性にはこだわりはない。ただ、俺には心から好きな人がいる。だから正直にそう話して、きっぱりと断った。想ってくれても構わないが、俺が先生を好きになることはないと断言した。それなのに…先生は諦めてくれない。断った後も俺に声をかけ続け頻繁に用事を頼む。用事は大したことではなく、俺に会う口実らしい。
颯人にも相談したけど、「口では青のこと好きだって言うけど、手は出してこないんだろ?悪い人じゃないし数学教えてもらえる代わりに、話してあげてるって思えば?本当に困ったら俺を呼んで」と言われてしまった。
確かに颯人の言うように、俺に指一本触れてはこない。「同意なしに触らないよ」と先生も言ってたし。それにもし先生が襲ってきても、俺の方がデカいし反撃できる。先生は、口ではしつこく言ってくる割に、態度がとても紳士なんだ。
俺は以前のように昊と話せなくなったことが寂しかったけど、いつしか先生と過ごす間は、寂しさが紛れていることに気づいた。
俺が素直に中に入ると、後ろでガチャと鍵がかかる音がした。
俺は振り向き思いっきり嫌な顔をする。
「なんで鍵かけるんですか」
「森野との時間、誰にも邪魔されたくないから」
「はあ?気持ち悪いこと言わないでくださいよ。で?手伝ってほしいことってなに?」
「あー、おまえは相変わらずクールだよなぁ。俺の気持ちわかってんだろ?」
「何度も言ってますが迷惑です。それに犯罪ですよ?」
「ちっ、何かといやぁ脅しやがって。別に手は出さねぇよ」
「出さなくても嫌がってるのに言い寄るのは、セクハラになりませんか?」
「ならない。だっておまえ、俺のこと嫌いじゃないだろ?」
「さあ?」
「さあって何だよ」と不貞腐れながら、大神先生が机の上の書類をまとめ始めた。
担任ではないけど、一年の数学の授業を担当する大神先生は、生徒の間で人気がある。言葉遣いは荒いが、親しみやすく誰に対しても平等に接するから。でもなぜか、最初の授業の日から俺に執着している。廊下で会えば必ず声をかけられ、何かと用事を頼まれる。
何度目かの用事を頼まれた時に、先生が受け持つクラスの生徒でもないのに、なぜ俺にばかり用事を頼むのか聞いた。答えは先ほどの通り。俺に一目惚れしたらしい。マジかよと驚いた。
大神先生は先生になって三年目で若い。だからといって、九歳も下の、しかも同性に告白するか?でもまあ、俺は歳の差とか同性にはこだわりはない。ただ、俺には心から好きな人がいる。だから正直にそう話して、きっぱりと断った。想ってくれても構わないが、俺が先生を好きになることはないと断言した。それなのに…先生は諦めてくれない。断った後も俺に声をかけ続け頻繁に用事を頼む。用事は大したことではなく、俺に会う口実らしい。
颯人にも相談したけど、「口では青のこと好きだって言うけど、手は出してこないんだろ?悪い人じゃないし数学教えてもらえる代わりに、話してあげてるって思えば?本当に困ったら俺を呼んで」と言われてしまった。
確かに颯人の言うように、俺に指一本触れてはこない。「同意なしに触らないよ」と先生も言ってたし。それにもし先生が襲ってきても、俺の方がデカいし反撃できる。先生は、口ではしつこく言ってくる割に、態度がとても紳士なんだ。
俺は以前のように昊と話せなくなったことが寂しかったけど、いつしか先生と過ごす間は、寂しさが紛れていることに気づいた。
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