ふれたら消える

明樹

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「昊っ」
「やあ弟くん、こんにちは。偶然だねぇ」
「ちっ…」

 俺の舌打ちを聞いて、夏樹が俺の手に触れ首を振る。冷静になれと目で言ってる。俺は今すぐに昊を引き寄せたい衝動を我慢した。
 柊木という男が、にこやかに笑いながら手を上げる。
 なんだようっとうしい。腹が立つ。俺は昊に話しかけたんだ。おまえにじゃない。それに悪い予感が当たった。やっぱり昊は、柊木と会っていたんだと気持ちが重くなった。
 夏樹が席を立ち柊木の前に行く。

「どうも、昊と同クラの宮下です。昊とは小学校からの友達」
「あ、知ってる!クラスの女子が君のこと話してたから。へぇ、宮下くんは昊の家族とも仲良いんだ?」
「そうだね。青は弟みたいなもん」
「ふーん」

 柊木が俺を見てきたけど無視をする。
 俺は昊を見つめた。本当にただの友達として接してるのか見極めるために。しかし昊は、俺と目が合うなり逸らしてしまう。なんで?なんか隠したいことでもあるの?そう思って昊にも腹が立ったけど、俺が怒ったところで昊には関係ない。俺は昊の恋人ではない。ただの弟なのだから。

「せっかくだから、こっちに座れよ。ほら、昊は青の隣」
「うん…」

 昊がチラリと俺を見て目を逸らせた。
 昊の態度に不安が増したけど、昊が隣に来てくれて少しだけ安堵する。
 一方、「強引だなぁ」と苦笑する柊木を、夏樹が隣に座らせてメニューを渡す。

「なに頼む?」
「えーと、俺はアイスコーヒー。昊は?」
「俺…」
「昊はアイスミルクティーだよ」
「…ああ、うん」

 俺は、昊にかぶせるように言った。昊のことは誰よりも知っている。そのことを柊木に見せつけるために。だけど兄弟だから当然のことだ。  
 案の定、柊木は特に何も思っていない様子で「へぇ、そうなんだ」と笑った。

「覚えておくよ。他には何が好き?」

 続けて言う柊木にイライラする。ここに俺と昊と夏樹の三人だけでいたなら楽しいのに。柊木は邪魔だ。
 そんな風に思ってしまって、俺は心が狭いなと小さく息を吐いた。
 しかし昊は、柊木の質問に答えるつもりはないらしい。
 俺と夏樹を交互に見て首を傾けた。

「おまえら二人で何してたんだ?珍しくないか?たまたま会った?」
「あーうん、そう。そんで暑かったから店に入ろうってなった」

 俺は黙って夏樹を見た。
 俺から相談を受けたと聞くと、昊はしつこく聞くだろう。俺も相談内容を昊に知られたくない。
だから夏樹と話を合わせることにした。
 
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