ふれたら消える

明樹

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 だんだんと民家がまばらになり、途切れた所で山の入口に着いた。
 頻繁ひんぱんに人が通って出来た細い道の先を見る。
道は、山というよりは丘と言った方がいいくらい、緩やかな登りになっている。
 颯大は入口で一旦止まると「ちゃんとついてこいよ」と言って、僕の手を離して前を歩き始めた。
 僕が隣に立つ昊を見上げると、先に行けという風に昊が僕の背中を押す。
 二人並んで歩くには狭い道だから、僕は昊と繋いでいた手を離して、颯大の後に続いた。

 颯大、僕、昊の順番で山道を進んで行く。
 登り始めて十分くらいすると、颯大がいきなり横道にれた。

「えっ、こんな狭いところ行くの?」
「当たり前だろ。秘密基地なんだから。誰にも見つからない場所じゃないと」
「そ…だけど…」

 両側から長く伸びた草や枝が迫ってくる細い道を、怖々と歩く。
 膝下までのズボンを履いているせいで、進む度にズボンから覗く足に、草や枝がこすれて痛い。
 少し速度が落ちた僕の頭を、昊が後ろからポンポンと撫でた。

「どうした?足、痛い?長ズボン履いてくれば良かったな」
「昊…」
「帰ったら見てあげるから、な?」
「うん…。なあ颯大、まだ?」

 昊に優しくされて、僕はすぐに元気になる。
僕は足を早めて颯大に追いつくと、あとどれくらいかかるのかを聞いた。

「もうすぐだよ。あ、この先、道がすごく細くなってるんだ。通りにくいし気をつけろよ」
「うん」

 少し先を見ると、大きな枝が張り出して道をふさいでいる。
 颯大が枝を押し上げて下をくぐり抜ける。
 僕も同じようにしてくぐり抜け、昊も僕の後に続いた。

「あっ、見えて来たよっ」

 颯大が叫んで、歩く速度を速める。
 僕は、思ったより遠かったよな…と、身体を伸ばしながら空を仰いだ。そして初夏の空の青さに目を奪われて、固まった。

「青?」

 昊に呼ばれて、慌てて顔を戻す。
 その動作が、まずかった。
 僕は立ちくらみのような状態になって、身体の均衡を保てなくなった。

「青っ!」

 身体がゆっくりと傾いて、数メートルの深さはある谷へと倒れていく。

 あ…!まずい…っ。

 そう思った瞬間、昊が僕に飛びついて抱きしめた。
 そのままザザーっと斜面を転がり落ちる。
 実際は、ほんの数秒のことだったと思う。
 だけど斜面の下にある木にぶつかるまで、すごく長く感じた。
 やっと落ちるのが止まり、固く閉じていた目を開ける。
 つい先程も見た、美しい空の青が目に飛び込んでくる。

「く…っ…」

 顔の傍で昊の苦しそうな声がして、僕はあせって昊の名前を呼んだ。

「昊…っ!大丈夫?どうしたの?」
「青っ!大丈夫っ?」

 僕の声に被せるように、斜面の上から颯大の声がした。









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