天狗の花嫁

明樹

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鉄side(一ノ瀬 鉄) 4

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しろが住んでいる家は、中々に風情のある日本家屋だった。まず、織部が呼び出している間、僕は庭の木の陰に隠れて様子を見る。玄関扉が開いて顔を出したのは、男だと聞いていなければ女だと思ってしまうくらいの、可愛らしい人物だった。
少し色素の薄い柔らかそうな髪の毛に、白い肌、くりくりの大きな二重の目、小さな唇…。
まあ…しろが間違えたのもわかる気がする。


織部に呼ばれて彼の前に進んだ。
僕が挨拶をすると、大きな目をぱちぱちとさせて、慌てて「椹木  凛です」と挨拶を返してきた。
驚いた事に彼は、しろが自分を女と間違えて契約したから花嫁ではない、というようなことを言った。その割に、しろがいなくて寂しそうにしている。


ーーもしかしてお互いを想ってはいるけど、二人はまだ、気持ちを確かめ合っていないのかもしれない。なら、今のうちに何とか阻止しなければ。


凛の家に上げてもらい話をしているうちに、しろはこういう子が好きなのか…と、またじわりじわりと苛立ちが僕の中に広がっていった。
そして、凛を強引に誘って、郷に連れて帰る事に成功した。


郷に向かう道中、折を見て何なら落としてやろうと、僕が凛を連れて行く事にした。
飛び立つ前に、僕の翼に見入る凛に気付いて小さく舌打ちをする。


ーーどうせ烏の羽に似た真っ黒な翼を気持ち悪いと思ってるんだろう。おまえにそんな風に思われてるのかと思うとムカつく。


僕はイラッとしたけど、殊勝なふりをして「黒って禍々しいよね…」と言ってみた。
すると凛は、「黒は何色にも染まらなくてかっこいいし綺麗だ」と、目を輝かせてそう言った。
僕は、思ってもみなかった答えが返ってきて驚いた。そんな風に言われたのは初めてだ。この時、僕の心の奥深くに何かが小さく芽吹いたことに、僕は気付かなかった。


少し気分の良くなった僕は、とりあえず郷に行く道中に落とすのはやめた。


この日、僕の妹の茜が、しろの家を訪問していた。その事を知っていた僕は、郷に着いてすぐに、凛を連れてしろの家に向かった。
しろの家に着くと、ぴったりのタイミングでしろと茜の二人が出て来た。
突然の凛の登場に驚いたしろが、大きな声を上げて怒鳴った。
二人並んだ姿を見て戸惑っている上に、怒鳴られてショックを受けた凛が、涙を浮かべて走り去るのを僕はほくそ笑んで見ていた。直後、僕の傍を風が吹き抜ける。風が吹き抜けた先に目をやると、しろがものすごい勢いで凛を追い掛けて飛んで行くのが見えた。


ーーそのまま喧嘩別れしてしまえばいい。


僕が家に引き返そうとすると、茜が呑気な事を口走った。


「あら、今の子がきっと銀様の花嫁になる方ね。男の子だと聞いてたけど、とても可愛い子ね。なんか…誤解させてしまったのかしら…。悪いことをしたわ…」
「おまえ、会議に出席する父さんに付いて行くんだろ?準備は出来てるのか?」
「あっ、そうよ!早く帰って準備をしなくちゃ。兄さま、銀様とあの子によろしく言っておいてね」


小走りに家へと向かう茜を一瞥する。
この郷の者たちはぬる過ぎる。しろは次の天狗一族の長だ。そのしろの結婚相手が人間でしかも男なんだぞ。それをなぜ許す?


先ほどの事で喧嘩別れでもしてくれればそれで良い。しかし、そうでなければ次の手を進めなければ…。
ちょうど明日から、しろの父親や僕の父さん達上層部の者は会議に出掛けてしまい、数日は帰って来ない。行動を起こすにはちょうど良い。


僕は、明日起きることを想像して、少し興奮している自分に苦笑いをした。
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