天狗の花嫁

明樹

文字の大きさ
上 下
110 / 221

鉄side(一ノ瀬 鉄) 2

しおりを挟む
その日、夕方になって山から戻って来たしろは、すこぶる機嫌が良かった。にこにことして、何度も自分の手を見たり山を眺めたりしていた。
僕が「どうしたの?」と聞いても「なんでもない」と言って、何も教えてくれなかった。


次の日から驚いた事に、しろは、真面目に勉強に励み出した。父さんは、「ただの気まぐれだ」と吐き捨てていたけど、おじさんとおばさんは、「やっとやる気が出たのか」とすごく喜んでいた。


毎日、真面目に勉強をしたしろは、週末になると、朝早くから山に出掛けた。僕が一緒に遊ぼうと家に行ったら、すでに出掛けた後だった。
そして夕方になってから、また上機嫌で戻って来た。しかも今度は、ずっと頬に手を当ててにやにやしている。
また僕が「どうしたの?」と聞くと、今度は顔を赤くして「なんでもないっ」と顔を背けた。
僕は不思議に思ったけど、その後の一週間は、前にも増して、しろは熱心に勉強に取り組むようになった。


それからは、週末になる度にしろはどこかへ出掛ける。一度、出掛けようとした所に僕が訪ねて行って一緒に行きたいと頼んだけど、頑なに断られてしまった。
一体…どこで何をしてるんだろう…。


しろが、頻繁に出掛けるようになってから九ヶ月ほど過ぎた翌年の夏に、妖のエリートが集まる学校へ、しろが行く事になった。「立派な大天狗になりたいから行きたい」と自分から言ったそうだ。
「しろが行くなら僕も行くっ」と慌てて僕も入学の手続きを済ませた。


学校は遠くにあって、簡単には郷に戻って来れない。郷を出発する日、遠くの山を見つめて「必ず立派になるから待ってろよ…」と、しろが胸に手を当てて呟いていた。
僕は何の事か聞きたかったけど、しろがとても真剣な表情をしてたから、何も言えなかった。


学校でのしろの成績は素晴らしかった。
同学年はもちろん、年の近い学年の中でも、学問も術も体術もすべて、飛び抜けて優れていた。
僕もしろに置いて行かれないように必死に頑張って、なんとか学年十番以内の成績を保っていた。


そこで約八年学んで、しろは人間界にあるレベルの高い大学に進んだ。僕も同じ所に行きたかったけど難しく、渋々別の大学へ進学した。


しろは一年間、大学近くの一ノ瀬家が所有するマンションから通っていた。だけど二年になる直前に、大学から少し離れた場所へ引っ越した。
僕は、便利なマンションからなぜ引っ越すのか疑問に思った。だから、春休みに郷で会った時に、しろに聞いてみた。


「しろ、なぜわざわざ大学から遠い場所に引っ越したの?」
「ああ…おまえにまだ話してなかったな。俺には、子供の頃に結婚の契約を交わした相手がいる。その子は遠くに行ってたんだけどな、この三月からこっちに戻って来たんだ。だからその子と一緒に住む為に引っ越しをした」


  照れ臭そうに話すしろの言葉に、僕は衝撃を受けた。


ーー結婚の契約なんていつしたんだ?しかも一緒に住むだって?そんな…。


しろの嬉しそうな顔を見て、僕は何も言えなくなる。だって、僕に反対する権利なんてないのだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】騎士団寮のシングルファザー

古森きり
BL
妻と離婚し、彼女を見送り駅から帰路の途中、突然突っ込んできた車に死を覚悟した悠来。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、悠来の奮闘が今、始まる! 小説家になろう様【ムーンライトノベルズ(BL)】にも掲載しています。 ※『騎士団寮のシングルマザー』と大筋の流れは同じですが元旦那が一緒に召喚されていたら、のIFの世界。 これだけでも読めます。 ※R指定は後半の予定。『*』マークが付きます。

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

好きだから

葉津緒
BL
総長(不良)に片想い中の一途な平凡少年。 を、面白がってからかうチャラ男なNO.2(副総長/不良)。 不良×平凡

【完結】売れ残りのΩですが隠していた××をαの上司に見られてから妙に優しくされててつらい。

天城
BL
ディランは売れ残りのΩだ。貴族のΩは十代には嫁入り先が決まるが、儚さの欠片もない逞しい身体のせいか完全に婚期を逃していた。 しかもディランの身体には秘密がある。陥没乳首なのである。恥ずかしくて大浴場にもいけないディランは、結婚は諦めていた。 しかしαの上司である騎士団長のエリオットに事故で陥没乳首を見られてから、彼はとても優しく接してくれる。始めは気まずかったものの、穏やかで壮年の色気たっぷりのエリオットの声を聞いていると、落ち着かないようなむずがゆいような、不思議な感じがするのだった。 【攻】騎士団長のα・巨体でマッチョの美形(黒髪黒目の40代)×【受】売れ残りΩ副団長・細マッチョ(陥没乳首の30代・銀髪紫目・無自覚美形)色事に慣れない陥没乳首Ωを、あの手この手で囲い込み、執拗な乳首フェラで籠絡させる独占欲つよつよαによる捕獲作戦。全3話+番外2話

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

薫る薔薇に盲目の愛を

不来方しい
BL
代々医師の家系で育った宮野蓮は、受験と親からのプレッシャーに耐えられず、ストレスから目の機能が低下し見えなくなってしまう。 目には包帯を巻かれ、外を遮断された世界にいた蓮の前に現れたのは「かずと先生」だった。 爽やかな声と暖かな気持ちで接してくれる彼に惹かれていく。勇気を出して告白した蓮だが、彼と気持ちが通じ合うことはなかった。 彼が残してくれたものを胸に秘め、蓮は大学生になった。偶然にも駅前でかずとらしき声を聞き、蓮は追いかけていく。かずとは蓮の顔を見るや驚き、目が見える人との差を突きつけられた。 うまく話せない蓮は帰り道、かずとへ文化祭の誘いをする。「必ず行くよ」とあの頃と変わらない優しさを向けるかずとに、振られた過去を引きずりながら想いを募らせていく。  色のある世界で紡いでいく、小さな暖かい恋──。

おっさん家政夫は自警団独身寮で溺愛される

月歌(ツキウタ)
BL
妻に浮気された上、離婚宣告されたおっさんの話。ショックか何かで、異世界に転移してた。異世界の自警団で、家政夫を始めたおっさんが、色々溺愛される話。 ☆表紙絵 AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。

騎士が花嫁

Kyrie
BL
めでたい結婚式。 花婿は俺。 花嫁は敵国の騎士様。 どうなる、俺? * 他サイトにも掲載。

処理中です...