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鉄side(一ノ瀬 鉄) 2
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その日、夕方になって山から戻って来たしろは、すこぶる機嫌が良かった。にこにことして、何度も自分の手を見たり山を眺めたりしていた。
僕が「どうしたの?」と聞いても「なんでもない」と言って、何も教えてくれなかった。
次の日から驚いた事に、しろは、真面目に勉強に励み出した。父さんは、「ただの気まぐれだ」と吐き捨てていたけど、おじさんとおばさんは、「やっとやる気が出たのか」とすごく喜んでいた。
毎日、真面目に勉強をしたしろは、週末になると、朝早くから山に出掛けた。僕が一緒に遊ぼうと家に行ったら、すでに出掛けた後だった。
そして夕方になってから、また上機嫌で戻って来た。しかも今度は、ずっと頬に手を当ててにやにやしている。
また僕が「どうしたの?」と聞くと、今度は顔を赤くして「なんでもないっ」と顔を背けた。
僕は不思議に思ったけど、その後の一週間は、前にも増して、しろは熱心に勉強に取り組むようになった。
それからは、週末になる度にしろはどこかへ出掛ける。一度、出掛けようとした所に僕が訪ねて行って一緒に行きたいと頼んだけど、頑なに断られてしまった。
一体…どこで何をしてるんだろう…。
しろが、頻繁に出掛けるようになってから九ヶ月ほど過ぎた翌年の夏に、妖のエリートが集まる学校へ、しろが行く事になった。「立派な大天狗になりたいから行きたい」と自分から言ったそうだ。
「しろが行くなら僕も行くっ」と慌てて僕も入学の手続きを済ませた。
学校は遠くにあって、簡単には郷に戻って来れない。郷を出発する日、遠くの山を見つめて「必ず立派になるから待ってろよ…」と、しろが胸に手を当てて呟いていた。
僕は何の事か聞きたかったけど、しろがとても真剣な表情をしてたから、何も言えなかった。
学校でのしろの成績は素晴らしかった。
同学年はもちろん、年の近い学年の中でも、学問も術も体術もすべて、飛び抜けて優れていた。
僕もしろに置いて行かれないように必死に頑張って、なんとか学年十番以内の成績を保っていた。
そこで約八年学んで、しろは人間界にあるレベルの高い大学に進んだ。僕も同じ所に行きたかったけど難しく、渋々別の大学へ進学した。
しろは一年間、大学近くの一ノ瀬家が所有するマンションから通っていた。だけど二年になる直前に、大学から少し離れた場所へ引っ越した。
僕は、便利なマンションからなぜ引っ越すのか疑問に思った。だから、春休みに郷で会った時に、しろに聞いてみた。
「しろ、なぜわざわざ大学から遠い場所に引っ越したの?」
「ああ…おまえにまだ話してなかったな。俺には、子供の頃に結婚の契約を交わした相手がいる。その子は遠くに行ってたんだけどな、この三月からこっちに戻って来たんだ。だからその子と一緒に住む為に引っ越しをした」
照れ臭そうに話すしろの言葉に、僕は衝撃を受けた。
ーー結婚の契約なんていつしたんだ?しかも一緒に住むだって?そんな…。
しろの嬉しそうな顔を見て、僕は何も言えなくなる。だって、僕に反対する権利なんてないのだから。
僕が「どうしたの?」と聞いても「なんでもない」と言って、何も教えてくれなかった。
次の日から驚いた事に、しろは、真面目に勉強に励み出した。父さんは、「ただの気まぐれだ」と吐き捨てていたけど、おじさんとおばさんは、「やっとやる気が出たのか」とすごく喜んでいた。
毎日、真面目に勉強をしたしろは、週末になると、朝早くから山に出掛けた。僕が一緒に遊ぼうと家に行ったら、すでに出掛けた後だった。
そして夕方になってから、また上機嫌で戻って来た。しかも今度は、ずっと頬に手を当ててにやにやしている。
また僕が「どうしたの?」と聞くと、今度は顔を赤くして「なんでもないっ」と顔を背けた。
僕は不思議に思ったけど、その後の一週間は、前にも増して、しろは熱心に勉強に取り組むようになった。
それからは、週末になる度にしろはどこかへ出掛ける。一度、出掛けようとした所に僕が訪ねて行って一緒に行きたいと頼んだけど、頑なに断られてしまった。
一体…どこで何をしてるんだろう…。
しろが、頻繁に出掛けるようになってから九ヶ月ほど過ぎた翌年の夏に、妖のエリートが集まる学校へ、しろが行く事になった。「立派な大天狗になりたいから行きたい」と自分から言ったそうだ。
「しろが行くなら僕も行くっ」と慌てて僕も入学の手続きを済ませた。
学校は遠くにあって、簡単には郷に戻って来れない。郷を出発する日、遠くの山を見つめて「必ず立派になるから待ってろよ…」と、しろが胸に手を当てて呟いていた。
僕は何の事か聞きたかったけど、しろがとても真剣な表情をしてたから、何も言えなかった。
学校でのしろの成績は素晴らしかった。
同学年はもちろん、年の近い学年の中でも、学問も術も体術もすべて、飛び抜けて優れていた。
僕もしろに置いて行かれないように必死に頑張って、なんとか学年十番以内の成績を保っていた。
そこで約八年学んで、しろは人間界にあるレベルの高い大学に進んだ。僕も同じ所に行きたかったけど難しく、渋々別の大学へ進学した。
しろは一年間、大学近くの一ノ瀬家が所有するマンションから通っていた。だけど二年になる直前に、大学から少し離れた場所へ引っ越した。
僕は、便利なマンションからなぜ引っ越すのか疑問に思った。だから、春休みに郷で会った時に、しろに聞いてみた。
「しろ、なぜわざわざ大学から遠い場所に引っ越したの?」
「ああ…おまえにまだ話してなかったな。俺には、子供の頃に結婚の契約を交わした相手がいる。その子は遠くに行ってたんだけどな、この三月からこっちに戻って来たんだ。だからその子と一緒に住む為に引っ越しをした」
照れ臭そうに話すしろの言葉に、僕は衝撃を受けた。
ーー結婚の契約なんていつしたんだ?しかも一緒に住むだって?そんな…。
しろの嬉しそうな顔を見て、僕は何も言えなくなる。だって、僕に反対する権利なんてないのだから。
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