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翌朝、朝飯を終えると、布団を片付けて荷物を抱え、りつの手を引いて部屋を出た。挨拶をしようと廊下を歩いていると、本堂に住職と老人の姿を認めた。
途端にりつが、手を離して走り出す。
「うわぁ!ここ、すごく広いね!何してるの?」
「ここは御本尊を祀ってる所ですよ。ほら、見てご覧なさい。立派な観音様がいらっしゃるでしょう」
「ほんとだ。とても綺麗…」
住職が指し示した場所に祀られている大きな観音像を見て、りつが静かになった。
傍に寄り、両手を握りしめてうっとりと眺めている。
俺が、りつの頭をそっと撫でてやると、俺にぴたりと身体を寄せた。
「どうした?」
「…よくわかんないけど、僕、こんなに綺麗なの初めて見た…」
「そうだな、とても綺麗だ。りつはきっと感動したのだな」
「うん…」
「ところで」と老人の声がして、振り返る。
「もう出るのかね?」
「はい。お世話になりました。実は今から行く所は、ここからそう遠くない場所でして…。またここに来ればあなたに会えますか?」
「どうじゃろ?わしは気まぐれでな。ふらりとどこかに行くかもしれん」
「そうですか…」
俺と老人が話してる間に、住職が「他の場所の観音様も見に行きますか?」とりつを誘っている。
りつが、伺うようにこちらを見たので、小さく頷いてやる。
すぐにパッと華やかな笑顔になって「見たいです」と言うと、住職の後について本堂を出て行った。
老人と二人残された本堂に、少しの間、静寂な時が流れる。
静寂を破ったのは、老人だった。
「あの子は不思議な子じゃの。 自覚なくとも鬼であれば、この本堂に入って来たくはないと思うのだがな。ましてや御本尊を目にしてきれいと口にするとは。面白い子じゃ」
「りつは心がきれいな子ですから」
「わはは!褒めるのう。ほんにあの子が可愛いのじゃな。だが、あまりにも心がきれいなのも心配じゃ。世の中、悪人がたんまりとおるからの」
「たんまりと…ですか?」
「そうじゃ。あの子が騙されんよう、もっと気をつけてやりなされ。それにしても…。昨日も思うたが、お主は誠に若いな。不死かの?」
「まさか!人よりは多少、若く見られるだけです」
「…そうか?何にせよ、老いたわしには羨ましい限りじゃ。さて、そろそろ行くか?」
老人に促されて、並んで本堂を出て歩き出す。
境内に降りた所で、りつが戻って来る姿が見えて、俺は老人にもう一度挨拶をした。
「それではこれで失礼します。どうかお元気で」
「うむ。…わしは優れた坊主ではないが、様々なことを経験しておる。だから前にも言うたが、普通の人よりは少々特別なんじゃ。不思議な力を持ち、見えぬモノが見える。はずだったのじゃが……。年かのう。お主のことは全く気づかなんだ。もしやお主……」
「ゆきはる!」
戻って来たりつが、勢いよく俺に抱きつく。
そこで老人が口を噤んでしまった為に、何を言おうとしていたのかわからなくなった。
真剣な表情をしていた老人が、とてもにこやかに微笑んで「またおいで」とりつの頭を撫でている。
俺は、老人が何を言おうとしたのか気になったが、その言葉の先を聞くのが怖いとも思い、あえて追求しなかった。
門まで送ってくれた住職と老人に礼を言うと、りつに手を引かれるままに寺を後にした。
途端にりつが、手を離して走り出す。
「うわぁ!ここ、すごく広いね!何してるの?」
「ここは御本尊を祀ってる所ですよ。ほら、見てご覧なさい。立派な観音様がいらっしゃるでしょう」
「ほんとだ。とても綺麗…」
住職が指し示した場所に祀られている大きな観音像を見て、りつが静かになった。
傍に寄り、両手を握りしめてうっとりと眺めている。
俺が、りつの頭をそっと撫でてやると、俺にぴたりと身体を寄せた。
「どうした?」
「…よくわかんないけど、僕、こんなに綺麗なの初めて見た…」
「そうだな、とても綺麗だ。りつはきっと感動したのだな」
「うん…」
「ところで」と老人の声がして、振り返る。
「もう出るのかね?」
「はい。お世話になりました。実は今から行く所は、ここからそう遠くない場所でして…。またここに来ればあなたに会えますか?」
「どうじゃろ?わしは気まぐれでな。ふらりとどこかに行くかもしれん」
「そうですか…」
俺と老人が話してる間に、住職が「他の場所の観音様も見に行きますか?」とりつを誘っている。
りつが、伺うようにこちらを見たので、小さく頷いてやる。
すぐにパッと華やかな笑顔になって「見たいです」と言うと、住職の後について本堂を出て行った。
老人と二人残された本堂に、少しの間、静寂な時が流れる。
静寂を破ったのは、老人だった。
「あの子は不思議な子じゃの。 自覚なくとも鬼であれば、この本堂に入って来たくはないと思うのだがな。ましてや御本尊を目にしてきれいと口にするとは。面白い子じゃ」
「りつは心がきれいな子ですから」
「わはは!褒めるのう。ほんにあの子が可愛いのじゃな。だが、あまりにも心がきれいなのも心配じゃ。世の中、悪人がたんまりとおるからの」
「たんまりと…ですか?」
「そうじゃ。あの子が騙されんよう、もっと気をつけてやりなされ。それにしても…。昨日も思うたが、お主は誠に若いな。不死かの?」
「まさか!人よりは多少、若く見られるだけです」
「…そうか?何にせよ、老いたわしには羨ましい限りじゃ。さて、そろそろ行くか?」
老人に促されて、並んで本堂を出て歩き出す。
境内に降りた所で、りつが戻って来る姿が見えて、俺は老人にもう一度挨拶をした。
「それではこれで失礼します。どうかお元気で」
「うむ。…わしは優れた坊主ではないが、様々なことを経験しておる。だから前にも言うたが、普通の人よりは少々特別なんじゃ。不思議な力を持ち、見えぬモノが見える。はずだったのじゃが……。年かのう。お主のことは全く気づかなんだ。もしやお主……」
「ゆきはる!」
戻って来たりつが、勢いよく俺に抱きつく。
そこで老人が口を噤んでしまった為に、何を言おうとしていたのかわからなくなった。
真剣な表情をしていた老人が、とてもにこやかに微笑んで「またおいで」とりつの頭を撫でている。
俺は、老人が何を言おうとしたのか気になったが、その言葉の先を聞くのが怖いとも思い、あえて追求しなかった。
門まで送ってくれた住職と老人に礼を言うと、りつに手を引かれるままに寺を後にした。
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