450 / 451
48
しおりを挟む
「なんだおまえ。まだ帰っていなかったのか?」
第二王子が低く冷たい声で言う。歓迎されてないことがわかっても、別に腹が立たない。俺の気持ちに余裕があるからだが、声の割に第二王子の顔が優しいからだ。何かと俺を睨んでくるが、その目を怖いと感じたこともない。
第二王子は、フィル様と深い絆で結ばれている俺を邪魔に思ってはいるのだろう。俺も彼に対してそう思っているからお互い様だ。だが嫌われてはいないと思う。まあ嫌われていたもしても、何も思わないが。
フィル様が第二王子の傍に行き腕にしがみつく。
「リアム!ラズールがね、近くに家を購入したって!これからはいつでも会えるねっ」
「はあ?うそだろ…」
目を細めてフィル様を見ていた第二王子の顔が、瞬時に険しいものになる。そして剣呑な目つきで俺を見た。今度こそ、本気で邪魔だと思われたらしい。
俺は微かに笑って深く頷く。
「本当です。ここから四半刻ほど離れた場所の、ノアの家の近くに。フィル様の部屋もあります」
「フィーを一人では行かせんぞ」
「承知しております。しかし第二王子の部屋はありませんので、フィル様を置いて帰ってください」
「くっ…!ゼノっ、どういうことだっ」
後ろに控えていたゼノが、呼ばれて前に出てくる。他にも見たことのある騎士が二名、馬を降りて、こちらのやり取りに耳を傾けている。
ゼノは第二王子の隣に立つと、「俺が家を用意しました」とサラリと言った。
第二王子はフィル様の肩を抱き寄せながら、ゼノにも険しい顔を向ける。
ゼノは第二王子と不安そうに見上げるフィル様を交互に見て、にこりと笑う。
「ラズールの覚悟を聞いたからです。彼の主はフィル様だけだそうですよ。死ぬまでお仕えしたい。だから国を出て、フィル様を守るためにバイロン国に来たのです。本来はイヴァルにいた時のように傍を離れず守りたかったみたいですが、フィル様はリアム様の伴侶ですから。だからせめて近くに住んで、何かあればすぐに駆けつけることができるようにしたいと相談を受けたので、家を探してあげたのですよ」
「おせっかいなヤツめ」
第二王子が忌々しげに言って、長く息を吐いた。気に入らなかったようだが、怒ってはいないらしい。
ゼノが更に続ける。
「ラズールの気持ちは俺にもわかります。俺も、リアム様がどこに行こうが、ついて行きますよ。俺の主もリアム様だけですから」
「ゼノ…」
胸に左手を当て頭を下げたゼノに向かって、第二王子が手を伸ばしかけた。その手がゼノに触れる前に、ゼノが顔を上げてフィル様に近づく。
「フィル様、ラズールの家に俺が泊まる部屋もあるんです。なので一緒に泊まりに行きましょう」
「おいっ、待て待て!なんでおまえの部屋があるんだ!」
「俺とラズールは友だからです。な、ラズール」
「そうだな」
今度は第二王子が俺とゼノを交互に見て、フィル様を抱きしめた。
第二王子が低く冷たい声で言う。歓迎されてないことがわかっても、別に腹が立たない。俺の気持ちに余裕があるからだが、声の割に第二王子の顔が優しいからだ。何かと俺を睨んでくるが、その目を怖いと感じたこともない。
第二王子は、フィル様と深い絆で結ばれている俺を邪魔に思ってはいるのだろう。俺も彼に対してそう思っているからお互い様だ。だが嫌われてはいないと思う。まあ嫌われていたもしても、何も思わないが。
フィル様が第二王子の傍に行き腕にしがみつく。
「リアム!ラズールがね、近くに家を購入したって!これからはいつでも会えるねっ」
「はあ?うそだろ…」
目を細めてフィル様を見ていた第二王子の顔が、瞬時に険しいものになる。そして剣呑な目つきで俺を見た。今度こそ、本気で邪魔だと思われたらしい。
俺は微かに笑って深く頷く。
「本当です。ここから四半刻ほど離れた場所の、ノアの家の近くに。フィル様の部屋もあります」
「フィーを一人では行かせんぞ」
「承知しております。しかし第二王子の部屋はありませんので、フィル様を置いて帰ってください」
「くっ…!ゼノっ、どういうことだっ」
後ろに控えていたゼノが、呼ばれて前に出てくる。他にも見たことのある騎士が二名、馬を降りて、こちらのやり取りに耳を傾けている。
ゼノは第二王子の隣に立つと、「俺が家を用意しました」とサラリと言った。
第二王子はフィル様の肩を抱き寄せながら、ゼノにも険しい顔を向ける。
ゼノは第二王子と不安そうに見上げるフィル様を交互に見て、にこりと笑う。
「ラズールの覚悟を聞いたからです。彼の主はフィル様だけだそうですよ。死ぬまでお仕えしたい。だから国を出て、フィル様を守るためにバイロン国に来たのです。本来はイヴァルにいた時のように傍を離れず守りたかったみたいですが、フィル様はリアム様の伴侶ですから。だからせめて近くに住んで、何かあればすぐに駆けつけることができるようにしたいと相談を受けたので、家を探してあげたのですよ」
「おせっかいなヤツめ」
第二王子が忌々しげに言って、長く息を吐いた。気に入らなかったようだが、怒ってはいないらしい。
ゼノが更に続ける。
「ラズールの気持ちは俺にもわかります。俺も、リアム様がどこに行こうが、ついて行きますよ。俺の主もリアム様だけですから」
「ゼノ…」
胸に左手を当て頭を下げたゼノに向かって、第二王子が手を伸ばしかけた。その手がゼノに触れる前に、ゼノが顔を上げてフィル様に近づく。
「フィル様、ラズールの家に俺が泊まる部屋もあるんです。なので一緒に泊まりに行きましょう」
「おいっ、待て待て!なんでおまえの部屋があるんだ!」
「俺とラズールは友だからです。な、ラズール」
「そうだな」
今度は第二王子が俺とゼノを交互に見て、フィル様を抱きしめた。
1
お気に入りに追加
506
あなたにおすすめの小説

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
左遷先は、後宮でした。
猫宮乾
BL
外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~
乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。
【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】
エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。
転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。
エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。
死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。
「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」
「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」
全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。
闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。
本編ド健全です。すみません。
※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。
※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。
※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】
※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
目が覚めたら異世界で魔法使いだった。
いみじき
BL
ごく平凡な高校球児だったはずが、目がさめると異世界で銀髪碧眼の魔法使いになっていた。おまけに邪神を名乗る美青年ミクラエヴァに「主」と呼ばれ、恋人だったと迫られるが、何も覚えていない。果たして自分は何者なのか。
《書き下ろしつき同人誌販売中》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる