銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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「なんだおまえ。まだ帰っていなかったのか?」

 第二王子が低く冷たい声で言う。歓迎されてないことがわかっても、別に腹が立たない。俺の気持ちに余裕があるからだが、声の割に第二王子の顔が優しいからだ。何かと俺を睨んでくるが、その目を怖いと感じたこともない。
 第二王子は、フィル様と深い絆で結ばれている俺を邪魔に思ってはいるのだろう。俺も彼に対してそう思っているからお互い様だ。だが嫌われてはいないと思う。まあ嫌われていたもしても、何も思わないが。
 フィル様が第二王子の傍に行き腕にしがみつく。
 
「リアム!ラズールがね、近くに家を購入したって!これからはいつでも会えるねっ」
「はあ?うそだろ…」

 目を細めてフィル様を見ていた第二王子の顔が、瞬時に険しいものになる。そして剣呑けんのんな目つきで俺を見た。今度こそ、本気で邪魔だと思われたらしい。
 俺はかすかに笑って深く頷く。

「本当です。ここから四半刻ほど離れた場所の、ノアの家の近くに。フィル様の部屋もあります」
「フィーを一人では行かせんぞ」
「承知しております。しかし第二王子の部屋はありませんので、フィル様を置いて帰ってください」
「くっ…!ゼノっ、どういうことだっ」

 後ろに控えていたゼノが、呼ばれて前に出てくる。他にも見たことのある騎士が二名、馬を降りて、こちらのやり取りに耳を傾けている。
 ゼノは第二王子の隣に立つと、「俺が家を用意しました」とサラリと言った。
 第二王子はフィル様の肩を抱き寄せながら、ゼノにも険しい顔を向ける。
 ゼノは第二王子と不安そうに見上げるフィル様を交互に見て、にこりと笑う。

「ラズールの覚悟を聞いたからです。彼の主はフィル様だけだそうですよ。死ぬまでお仕えしたい。だから国を出て、フィル様を守るためにバイロン国に来たのです。本来はイヴァルにいた時のように傍を離れず守りたかったみたいですが、フィル様はリアム様の伴侶ですから。だからせめて近くに住んで、何かあればすぐに駆けつけることができるようにしたいと相談を受けたので、家を探してあげたのですよ」
「おせっかいなヤツめ」

 第二王子が忌々いまいましげに言って、長く息を吐いた。気に入らなかったようだが、怒ってはいないらしい。
 ゼノが更に続ける。

「ラズールの気持ちは俺にもわかります。俺も、リアム様がどこに行こうが、ついて行きますよ。俺の主もリアム様だけですから」
「ゼノ…」

 胸に左手を当て頭を下げたゼノに向かって、第二王子が手を伸ばしかけた。その手がゼノに触れる前に、ゼノが顔を上げてフィル様に近づく。

「フィル様、ラズールの家に俺が泊まる部屋もあるんです。なので一緒に泊まりに行きましょう」
「おいっ、待て待て!なんでおまえの部屋があるんだ!」
「俺とラズールは友だからです。な、ラズール」
「そうだな」

 今度は第二王子が俺とゼノを交互に見て、フィル様を抱きしめた。
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