銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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「へぇ…なかなか良い場所だな」
「そうだろう。気に入ったならよかった。ここからフィル様の家までは、馬で四半刻もかからずに行けるぞ」
「ちょうどよい近さだ」

 目的地に到着した。柵で囲まれた広い敷地の中央に、二階建ての新しい家がある。ここは、ゼノに頼んで探してもらった、これから俺が住む家だ。金持ちの商人が建てたものの、資金繰りが上手くいかなくなって手放した家だ。俺一人が住むには広すぎるのだが、第二王子の元へ訪れるゼノも泊まることになっている。
 馬を小屋の前の柵に括りつけ、用意されていたエサと水を与える。そして俺とゼノは、マントを脱いで家に入った。一階には大きな机が置かれた広い部屋と、その奥に台所がある。後は洗面所とそこそこの広さの浴室と厠、そして物置部屋だ。二階には広い部屋が三つ。ゼノに「好きな部屋を使うといい」と言われたので、二番目に日当たりのいい部屋に決めた。一番日当たりのいい部屋は、フィル様が泊まりに来られた時のために開けておく。ゼノが使用する部屋も、俺の部屋と同じくらいの日当たりの良さだ。日常生活に困らない程度の家具や寝具や食器は、ゼノが全て準備してくれていた。
 俺は全ての部屋を見終わると、改めてゼノに礼を言う。

「ここまで整えてくれて助かった。ありがとう」
「大したことではないよ。それよりもラズール殿の好みもあっただろうに、俺が決めてしまって悪かったな」 
「構わない。俺は何が良いとかが全くわからない。だから本当に助かったよ」
「そう?慣れてきたらラズール殿の好きなように変えればいいさ」
「まあそうだな」

 一階の広い部屋には庭に面して大きな窓がある。その窓から広いテラスに出ることができる。テラスには二脚の椅子が並んで置かれている。その椅子に座り、ぽつりぽつりと話しながら、鳥の鳴き声を聞き風に揺れる木々の葉を眺めていると、門から伸びる道の先に、小さな人影が見えた。人影は荷車を重そうに引いている。こちらに向かって来ているらしい。
 俺は椅子にもたれかかっていた上半身を起こすと「誰だ?」と呟いた。
 ゼノも身を起こして人影を凝視する。しかしすぐに「ああ」と息を吐いた。

「なんだ?知り合いか?」
「そうだ。ラズール殿も知っている人だ」
「俺が?この国で知り合いなど…」

 ゼノやジル、ラシェット殿くらいだが…とそこまで呟いて、かなり近づいてきた人影の顔がわかって、全身の力を抜いた。
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