銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 広い客間に移動し、部屋の真ん中に置かれた大きな机を囲んで三人が座る。
 窓を背にクルト王が座り、向かい側に第二王子が、その隣にフィル様が腰を下ろした。
 フィル様が俺にも座るように言ったが遠慮えんりょした。別にクルト王に配慮はいりょしたわけではない。クルト王と第二王子と同じ机につきたくないだけだ。とてつもなく居心地が悪いから。だから俺は、フィル様を守るようにフィル様の後ろに立った。
 この部屋に来る途中の廊下で、ゼノが合流してくれて、心の中で安堵の息を吐く。クルト王を護衛している騎士が数人いるが、フィル様にとって安全なのかどうかがわからなかったから、ゼノの顔を見た瞬間、こわばっていた全身から力が抜けるのを感じた。そしてつくづく俺は、フィル様を守ることしか頭にないのだと思い知り、自分の頑なさに少し驚いた。だがまあ当然のことだ。俺にとってはフィル様が何よりも尊いのだから。
 使用人達が飲み物と軽食を並べて出ていくと、フィル様が明るい声を出した。

「クルト王もリアムも疲れたでしょ?美味しいお茶を飲んでゆっくり休んで」
「ありがとうフィー。俺はフィーの顔を見たら疲れなんて吹き飛んでしまったよ」
「ほんと?ふふっ、僕もリアムの顔を見た瞬間、元気になったよ」
「そうか。かわいいな」
「ん"ん"ッ」

 思わず邪魔をしてしまった。そのような甘いやり取りは、二人だけの時にしてもらいたい。非常に胸くそ悪……不愉快だ。
 クルト王は無言でお茶を飲み、目の前のパンにレタスと肉を挟んだ物を手に取りかぶりつく。無言で食べ終えお茶を飲むと、果物を口に入れたフィル様に目を向けた。

「ここは長閑のどかで空気もきれいだ。来年からは、暑くなる前にここに来るといい」
「うん…はい。ありがとうございます」

 フィル様は小さく頭を下げた。
 俺はフィル様の常と変わらぬ品のある態度に目を細めながら、ほんの少しの不満を隠さず口角を下げる。
 フィル様は位を返上されたが、本来ならクルト王と変わらぬ身分だ。同等の立場で話せばいいものを、なぜにそのような話し方をされるのか。
 気に食わないと思いつつフィル様を見つめていると、ゼノが「ラズール殿」と俺に近づいた。
 フィル様から一歩下がりゼノに顔を向ける。

「なにか?」
「この後、少しいいだろうか?」

 ゼノの目を見て察した俺は、「わかった」と深く頷いた。



 
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