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翌朝、外がしらみ始めた頃に出発した。空気が澄んでて昼の暑さが嘘のように涼しい。俺がそう言うと、ジルが笑った。
「はは!心地よいだろう。この国はバイロンやイヴァルよりも北にあるからな。冬の寒さが厳しいけど、夏は過ごしやすい。とくにここは山の近くだけあって昼でも涼しい」
「そういえばそうだな。昨日着いた時、汗をかいてなかった」
「だから俺は、子供の頃は夏によく遊びに来ていたのだ」
懐かしそうに目を細めるジルから目線を外して、俺はバイロン国の方角に顔を向けた。
イヴァル国内には、王族が所有する城があちらこちらにある。本来ならフィル様も、夏の暑い時には高原にある避暑地に行かれてもよかったのだ。王女の身代わりだったとしても、行かれてよかったのだ。なのにお優しいフィル様は、外に出られないフェリ様が可哀想だと言って、王城から出ることをされなかった。
「ラズール殿」
声に振り向くと、ゼノが優しい目で俺を見ていた。
「なんだ?」
「バイロンにも夏の暑さをしのげる涼しい土地がある。今年にでも、来年以降も、フィル様が頼めばリアム様が連れて行ってくださる。頼まなくとも、リアム様がフィル様の体調を気遣って連れて行ってくださる」
「なにか知っているのか」
「リアム様も心配されてたんだよ。暑くなるにつれてフィル様の食事の量が減ってることに。そして疲れやすいことに」
「そうか」
「だからクルト様に許可をいただいた。王族が所有している城に滞在してもよいかと。昨日か今日にも向かっているはずだ」
俺は馬を撫でていた手を止めて、眉間に皺を寄せた。
「…待て。ということは、鉱石を手に入れて二人の家に行っても、いないのだな?」
「いないよ」
「その城までは、遠いのか?」
ゼノとジルが顔を見合せて黙る。
俺は不安になり、思わず声を荒らげた。
「おいっ」
早くフィル様に鉱石から作られた薬を届けたいのに、余計なことをするなと第二王子への憎しみが増す。俺はやはりあの男が嫌いだ。
そんな俺の気持ちに気づいたらしく、ゼノが「落ち着け」と笑う。
「からかって悪かった。リアム様とフィル様が向かう城は、デネスの国境に近い場所にある。だから鉱石を入手した後、すぐに届けられるぞ」
「よかったな、ラズール殿」
二人して楽天的なものだ。
城が近いのは良かったが、体調の優れないフィル様を、この暑い中、長い道のりを移動させることに俺は怒っている。
「はは!心地よいだろう。この国はバイロンやイヴァルよりも北にあるからな。冬の寒さが厳しいけど、夏は過ごしやすい。とくにここは山の近くだけあって昼でも涼しい」
「そういえばそうだな。昨日着いた時、汗をかいてなかった」
「だから俺は、子供の頃は夏によく遊びに来ていたのだ」
懐かしそうに目を細めるジルから目線を外して、俺はバイロン国の方角に顔を向けた。
イヴァル国内には、王族が所有する城があちらこちらにある。本来ならフィル様も、夏の暑い時には高原にある避暑地に行かれてもよかったのだ。王女の身代わりだったとしても、行かれてよかったのだ。なのにお優しいフィル様は、外に出られないフェリ様が可哀想だと言って、王城から出ることをされなかった。
「ラズール殿」
声に振り向くと、ゼノが優しい目で俺を見ていた。
「なんだ?」
「バイロンにも夏の暑さをしのげる涼しい土地がある。今年にでも、来年以降も、フィル様が頼めばリアム様が連れて行ってくださる。頼まなくとも、リアム様がフィル様の体調を気遣って連れて行ってくださる」
「なにか知っているのか」
「リアム様も心配されてたんだよ。暑くなるにつれてフィル様の食事の量が減ってることに。そして疲れやすいことに」
「そうか」
「だからクルト様に許可をいただいた。王族が所有している城に滞在してもよいかと。昨日か今日にも向かっているはずだ」
俺は馬を撫でていた手を止めて、眉間に皺を寄せた。
「…待て。ということは、鉱石を手に入れて二人の家に行っても、いないのだな?」
「いないよ」
「その城までは、遠いのか?」
ゼノとジルが顔を見合せて黙る。
俺は不安になり、思わず声を荒らげた。
「おいっ」
早くフィル様に鉱石から作られた薬を届けたいのに、余計なことをするなと第二王子への憎しみが増す。俺はやはりあの男が嫌いだ。
そんな俺の気持ちに気づいたらしく、ゼノが「落ち着け」と笑う。
「からかって悪かった。リアム様とフィル様が向かう城は、デネスの国境に近い場所にある。だから鉱石を入手した後、すぐに届けられるぞ」
「よかったな、ラズール殿」
二人して楽天的なものだ。
城が近いのは良かったが、体調の優れないフィル様を、この暑い中、長い道のりを移動させることに俺は怒っている。
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