425 / 451
23
しおりを挟む
軽食を食べ終えた頃に、扉が鳴った。待ち人が来たようだ。
「どうぞ入って」 軽食を食べ終えた頃に、扉が鳴った。待ち人が来たようだ。
「どうぞ入って」
「失礼する」
低い声が聞こえ男が入ってきた。ゼノを見て「よお」と笑った後に、ゼノの向かい側に座る俺に気づき、軽く頭を下げる。
俺も目礼をして男を注視する。
男は机の側に来ると、着ていたマントを脱いで椅子にかけた。マントの下は、イヴァルの黒い軍服だ。
俺は男からゼノへ視線を移し、問うように見つめた。
ゼノが問いに答えてくれる。
「彼はジルという。ラシェット様の忠実な部下だ。会ったことがあるだろう?」
「ラシェット殿の?…ああ、そういえばあの場にいたな」
思い出したくもないことを思い出した。記憶を失った第二王子に、フィル様が左腕を切り落とされた時のことだ。あの場にこの男もいた。たいそう謝られたことを覚えている。
ジルが俺の前に立ち、謝罪する。
「あの時は申しわけなかった。今現在フィル様が元気に過ごされているとはいえ、あの時のことを思うと胸が痛む」
「元気だと?フィル様が?」
「…何かあったのか?」
ジルが驚いた顔をする。
ゼノがジルに「とりあえず座れ」と隣の椅子を指し示す。
素直にジルが座ったのを見て、ゼノが話し始めた。
「フィル様の体調が良くないらしい。あの時のことが原因ではないと思うが、一因ではある。フィル様は元より華奢な身体付きだ。その身体にイヴァル帝国の王族に伝わる呪いを受けていたそうだ。どれほどの負担がかかっていただろうか。解呪された時には、仮死状態になっている。短期間で元の体力以上に元気になるのは無理がある」
「なんと…そうであったか」
ジルが更に驚いた顔になる。フィル様が仮死状態になった時、ラシェット殿の部下ならジルも城にいたはずだ。フィル様が大変な目にあわれたこともわかっているはずだ。それなのにフィル様が元気になられ、健やかに過ごされていると信じていたのだろうか。
いや…俺もジルのことは言えない。俺もフィル様は元気でいると信じていた。そう思いたかった。熱を出されていないか、寝込んでおられないかという不安を胸の奥に押し込んで、大丈夫だ、元気で笑っておられると思い込もうとしていた。もっと早くにフィル様の体調不良に気づきたかった。もっと早くに医師から鉱石のことを聞いて探しに来ればよかった。俺はずっと悔やんでいる。
「どうぞ入って」 軽食を食べ終えた頃に、扉が鳴った。待ち人が来たようだ。
「どうぞ入って」
「失礼する」
低い声が聞こえ男が入ってきた。ゼノを見て「よお」と笑った後に、ゼノの向かい側に座る俺に気づき、軽く頭を下げる。
俺も目礼をして男を注視する。
男は机の側に来ると、着ていたマントを脱いで椅子にかけた。マントの下は、イヴァルの黒い軍服だ。
俺は男からゼノへ視線を移し、問うように見つめた。
ゼノが問いに答えてくれる。
「彼はジルという。ラシェット様の忠実な部下だ。会ったことがあるだろう?」
「ラシェット殿の?…ああ、そういえばあの場にいたな」
思い出したくもないことを思い出した。記憶を失った第二王子に、フィル様が左腕を切り落とされた時のことだ。あの場にこの男もいた。たいそう謝られたことを覚えている。
ジルが俺の前に立ち、謝罪する。
「あの時は申しわけなかった。今現在フィル様が元気に過ごされているとはいえ、あの時のことを思うと胸が痛む」
「元気だと?フィル様が?」
「…何かあったのか?」
ジルが驚いた顔をする。
ゼノがジルに「とりあえず座れ」と隣の椅子を指し示す。
素直にジルが座ったのを見て、ゼノが話し始めた。
「フィル様の体調が良くないらしい。あの時のことが原因ではないと思うが、一因ではある。フィル様は元より華奢な身体付きだ。その身体にイヴァル帝国の王族に伝わる呪いを受けていたそうだ。どれほどの負担がかかっていただろうか。解呪された時には、仮死状態になっている。短期間で元の体力以上に元気になるのは無理がある」
「なんと…そうであったか」
ジルが更に驚いた顔になる。フィル様が仮死状態になった時、ラシェット殿の部下ならジルも城にいたはずだ。フィル様が大変な目にあわれたこともわかっているはずだ。それなのにフィル様が元気になられ、健やかに過ごされていると信じていたのだろうか。
いや…俺もジルのことは言えない。俺もフィル様は元気でいると信じていた。そう思いたかった。熱を出されていないか、寝込んでおられないかという不安を胸の奥に押し込んで、大丈夫だ、元気で笑っておられると思い込もうとしていた。もっと早くにフィル様の体調不良に気づきたかった。もっと早くに医師から鉱石のことを聞いて探しに来ればよかった。俺はずっと悔やんでいる。
1
お気に入りに追加
506
あなたにおすすめの小説
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
左遷先は、後宮でした。
猫宮乾
BL
外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~
乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。
【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】
エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。
転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。
エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。
死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。
「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」
「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」
全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。
闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。
本編ド健全です。すみません。
※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。
※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。
※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】
※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
目が覚めたら異世界で魔法使いだった。
いみじき
BL
ごく平凡な高校球児だったはずが、目がさめると異世界で銀髪碧眼の魔法使いになっていた。おまけに邪神を名乗る美青年ミクラエヴァに「主」と呼ばれ、恋人だったと迫られるが、何も覚えていない。果たして自分は何者なのか。
《書き下ろしつき同人誌販売中》
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる