銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 翌朝、まだ宿の客が寝静まってる時間に起きて部屋を出た。靴音を響かせぬよう廊下を進み階段を降りる。階段を降りた場所に広い空間があり、そこに宿の主人がいた。昨日宿に入った時に、明朝の早くに出立する旨を伝えていたのだ。
 主人が俺を見て「おはようございます」と笑う。
 俺も挨拶を返すと、主人に宿の代金を渡した。

「世話になった。早くに起きてもらって申しわけない」
「毎朝これくらいには起きてますから大丈夫ですよ。あとこれは朝食にどうぞ」
「ありがとう。頂いていく」

主人が差し出した紙に包んだ物を受け取り、礼を言う。

「まだ外は暗いのでお気をつけて。馬は門につなげております」
「ああ。帰りにまた寄る」
「はい、お待ちしております」

 頭を下げる主人から離れ、外に出る。門の所にいる馬に近づくと、馬が俺に気づいてゆっくりと首を振った。
 俺は馬の背に荷物を乗せて飛び乗った。そしてつややかな毛並みの首を撫でながら「今日も頼むぞ」と囁く。
 馬がまるで「わかった」というように頷いた。賢い馬だ。光の加減で白銀に見える毛が気に入っている。フィル様がイヴァルを出られてから見つけて手に入れた。
 歩きながら揺れる馬の首を見つめて、つくづく思う。俺はどうしてもフィル様を連想させるモノに惹かれてしまう。俺の持ち物に銀色のものが多いのも納得だ。
 早くフィル様に会いたいと手綱を握りしめたその時、後方から馬のひづめの音が近づいてきた。
 俺は思わず身構える。今は何者かに追われているわけでない。だが他国にいる身としては、用心するにこしたことはない。いつでも剣を抜けるよう左手で手綱を持ち右手でつかに触れていると、真後ろに来た人物が大きな声で叫んだ。

「おいっ!待ってくれよ!先ほどから名前を呼んでるのにっ」

 聞き覚えのある声に手綱をゆるめて振り返った。

「何用か、ゼノ殿」

 追いかけてきたのはゼノだった。
 ゼノは隣に馬を並べて笑顔で言う。

 「一緒にデネス大国へ行こうと思って早起きして見張ってたんだよ。フィル様のために何かしに行くんだろ?俺も手伝うよ」
「しかし忙しいだろう」
「大丈夫。俺は日頃休みなく働いてるんだ。少しくらい休んでも許してもらえる」

 正直、来てもらえると助かる。鉱石を一人で探すよりも効率が良い。
 俺はゼノの目を見て「そうか」と頷いた。


 
 
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