銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 腰に剣を差し大きな袋を背負う。扉を開けて振り返り、部屋の中をぐるりと見る。フィル様が生まれる前の年から、この部屋で過ごしてきた。フィル様が怖い夢を見たと言って夜中に一人でここまで来て、一緒に寝たことも数え切れない。俺とフィル様の想い出が詰まった場所だ。もう、戻ってくることはないだろう。
 静かに扉を閉めて歩き出す。まだ外は薄暗く、夜が明けきっていない。皆も寝ているはず。誰にも気づかれずに出発するつもりだ。そのつもりだったのだが、厩舎きゅうしゃの前でトラビスが待っていた。

「なんだおまえ、早起きだな」
「なんだはこっちのセリフだ。挨拶あいさつなく出ていくつもりかよ」
「まあな。おまえも俺と最後に話すことなど何も無いだろう」
「ある。俺はずーっと言いたいことがある」
「へぇ、なんだ?最後だし聞いてやる」

 俺は厩舎の柵を外し、自分の馬を出した。その間に話せばいいものを、トラビスは黙ったままだ。俺は黙々と馬の背に荷物をくくりつけ、門に向かって進む。その後をトラビスもついてくる。しばらく歩いて門に着くと、門番が目礼をして鍵を開けた。
 
「おい、俺はもう行くぞ。話はどうした」

 馬の首を撫でながら、トラビスに振り返る。
 トラビスはキッと俺を睨んで、掠れた声を出した。

「俺は…おまえが嫌いだった」
「そうだろうな」
「何でもできて、優秀で。どんな地位も思いのままのくせに、フィル様を守ることしか眼中にない」
「当然だ」
「そんなにも主を慕うことができるおまえが、嫌いだけどうらやましかった」
「そうか」
「俺はっ、おまえよりも優れた男になるからな!ネロ様を支えて、もっとイヴァルを繁栄させる!」
「ふっ、おまえならできるさ。応援してるぞ」

 トラビスの目に涙が浮かんでいる。こいつはフィル様と一つしか違わないんだったな。だが、フィル様はあんなにもかわいらしいのに、こいつはなぜこうも憎たらしいのか。フィル様を敵視するこいつを、本気で消そうと思った時もあったが、今では良い男になったものだ。俺よりは格段に劣るが。
 俺はトラビスの肩に手を乗せ微かに口角を上げる。

「まあいつか戻って来たら、立派な姿を見せてくれ」
「…ラズール、フィル様の所へ行くのか?今追いかけたら間に合いそうだしな」
「フィル様の所へは……まだ行かない」
「じゃあどこに行くんだよ。どうせフィル様のための行動だろう?」
「なぜそう思う?」
「おまえ、人生の全てをフィル様にささげてるじゃないか。今さら、自分の好きに生きるなんてありえない」
「ふっ、おまえのそういう鋭いところ、嫌いではない。ではもう行く。せいぜいはげめよ」
「ラズールも!元気でっ」

 トラビスの肩から手を離し、手綱を引いて門を出る。
 いつまでも背後に視線を感じたが、俺は二度と振り返らなかった。
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