銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 フィル様とよく過ごした庭を歩いていると、ふいにフィル様が俺を見上げた。

「どうかしましたか?」
「ねぇ、奥庭に行かない?子供の頃は入れなかったし、王になってからは行く暇もなかったから行ってみたい」
「そうですね。行ってみましょうか」
「うん」

 俺が微笑ほほえむと、フィル様が握る手にキュッと力を込めた。
 王しか入れない奥庭。当然王族であるフィル様も入れるのだが、フィル様の母上である王の目が怖くて、フィル様が行かれたことは無い。
 しかし、ただ一度だけ、蝶を追いかけて迷い込んでしまわれたことがある。庭にいるはずのフィル様を見失って、俺は慌てて捜した。必死に歩き回って、もしや奥庭に行かれたのかとそちへ向かっている途中で、目に涙を浮かべたフィル様を見つけた時、どれほど安堵したか。そしてどれほどひどく胸が痛んだか。
 王に見つかり冷たく追い払われたのかと危惧したが、そうではなかった。見つかりはしなかったが、フィル様に対してよくない話を聞いてしまったらしい。本当に悲しそうに泣くフィル様の姿を見て、俺だけは全力で愛して守ると、もう何度目かもわからない誓いを立てた。世界中の全てを敵に回しても、俺だけはこの方を守ると小さな身体を抱きしめた。
 あの頃からずっと、この想いは変わらない。フィル様を守る役目を第二王子に譲ったけれども、俺の大切な人はフィル様だけだ。
 昔のことを思い出しているうちに、奥庭に着いた。奥庭といっても、他の庭とさして変わらない。
 フィル様が手を離して、一つ一つ花を眺めている。そして青い花の前で足を止め、腰をかがめて花に触れた。

「ここにもこの花があるんだね。ラズールの花」
「俺の花、ですか」
「そう。ほんとにラズールみたい。ねぇ覚えてる?僕が幼い頃、ここに迷い込んだことがあったの。あの頃は、広くて迷路のようだと思ったけど、普通の綺麗な庭だよね」

 俺は青い花の隣に咲く、小さな白とピンクの花を指先で揺らした。

「覚えてますよ。あなたの姿が見えなくなって、ひどく慌てましたから」
「ふふっ、ごめんね。ラズールの姿が見えた時、すごく安心したなぁ」
「俺も、あなたの姿が見えて安心しました。しかし泣いていたので、胸が痛くなりました」
「あ…母上の言葉に傷ついたから。もう少し大きくなった頃には、何を言われても慣れたんだけど」
「そんなこと、慣れるはずないでしょう。あなたはずっと傷ついて、でも耐えてきた。とても偉いと俺は思いますよ」
「ラズール…」
 
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