銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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「ああ!」

 フィル様が少し高い声を出す。そしてトラビスとネロを交互に見て微笑ほほえみながらうなずいた。
 ネロが「なんだよ」とフィル様をにらむ。
 俺は咄嗟とっさに身体が動きそうになるのをこらえた。フィル様をあのような目で見るなど、なんと無礼なことか。王であっても、許されることではない。
 しかし睨まれた当の本人は全く気にしていない。にこやかな笑顔でネロに近づいている。

「そうだった。その様子だと二人は良い関係みたいだね。自分のことを何よりも大切に思ってくれる人が傍にいるだけで、すごく救われて頑張れるんだよ。ネロ、トラビスに思いっきり甘えて頼ればいいと思う」
「ばっ…何言ってんだよ!俺は別に…っ」
「ネロ、今まで本当にありがとう。でも僕とラズールの職をといてください。お願いします」
「…フィルとラズールがそれを望むなら仕方がない。いいよ。でもっ、ここへはいつ来てもいいからな!」
「うん。ネロも、お忍びで遊びに来て。待ってるよ」
「わかった。ひまができたら必ず行く」

 少し不貞腐ふてくされたように言うネロを、フィル様が抱きしめた。そしてネロの耳元で何かを呟くと、ネロが笑ってフィル様を抱きしめ返した。
 フィル様ほどではないけど、ネロも優しいと思う。先祖代々の想いを背負っていたから、初めの頃は悪人のようだったが。
 フィル様がネロから離れると「すっきりしたぁ」と両腕を伸ばした。
 ずっと黙って様子を見ていたレナードが、一歩前に出る。

「すっきりしたとは?」
「先程も言ったけど、僕が重要な職にいていていいのかなと悩んでいたから…返上して気持ちが軽くなった。僕の我儘わがままだけど…レナードもごめんね」
「俺に謝ることなど何もありません。何事も、フィル様の良い様になさってください。俺もラズールと同じ想いです。今までこの国のために命をかけてきたのですから、これからはご自身の幸せだけを求めてください。でも可能ならば、遠くの地からイヴァルの繁栄と我々の幸せも願ってくださると嬉しく思います」
「もちろん!僕はイヴァルも皆のことも大好きだから。ずっとずっと、願っているよ」
「ありがとうございます。俺も、フィル様とリアム様の幸せを祈っていますよ」
「レナード…ありがとう」

 レナードがフィル様に頭を下げた。そして俺を見て首を傾げるかしげる。

「さてラズール、おまえはここを出てどこへ行く?」

 俺は特に何も考えていない。しばらくは旅に出て、国中を見て回りたい。その後は…。

「とりあえず旅に出る。その後は…秘密だ」
「ふーん。まあ何となく、おまえの考えてることはわかったぞ。今までの働きに応じて、かなりの報酬が出るだろう。思う存分、旅ができるな」
「ああ。楽しみだ」

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