銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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「どうか本心を教えてください。誰にも遠慮はいりません。俺は、あなたの本心に従います」
「うん?どうしたのラズール。何を言ってるのかわからないよ」

 フィル様が戸惑った表情でかすかに首を傾ける。
 可愛らしいと思わず口から出そうになって、俺は握りしめた手と腹に力を込めた。

「…俺は、ずっと考えていたのです。フィル様は辛い想いをした国を出て、愛する方と幸せに暮らしている。それなのにグランドデュークという位でイヴァルに縛りつけてしまってるのではないかと。イヴァルに関わる事柄ことがらから一切離れた方が、心から幸せになれるのではないかと」
「ラズール…」

 フィル様は手を離すと、俺の頭を優しく抱きしめた。

「ありがとう。おまえはいつも僕のことを一番に考えてくれる。でも大丈夫だよ。グランドデュークに任命されたことは、とても嬉しかった。僕を思って任命してくれたネロには感謝してるんだ」
「そうですか…」

 フィル様が俺から離れ、ネロと向き合う。

「でも…今回ここに来たのは、ラズールの誕生日を祝うためと、グランドデュークの位を返すためだよ。任命された時は本当に嬉しくて感動したけど、僕もずっと考えていた。イヴァルと繋がっていられることに安堵したと同時に、国を捨ててリアムの元へ行った僕には、この位を手にする資格はないのに…と不安だった」
「そんなことはっ…!」

 俺は立ち上がり声を荒らげた。
 資格なら十分にある。フィル様はこの国のために何度も命の危機にさらされ、呪いに苦しめられ、あまつさえ死にかけた。王よりも上の位にいても良いくらいだ。なのにフィル様は欲がない。優しすぎる。優しすぎて俺は時に苛立ってしまう。
「ラズール」と優しい声で呼ばれ、俺は心を落ち着かせる。

「おまえは何があっても僕を最優先に考えるから、今でも僕だけを主と思ってるんだろう?」
「当然です」
「ふふっ、正直だね。でもラズールの主はネロだよ。間違えないで」
「わかってます。それなりの敬意を持って仕えてますよ」
「まあ、職務はちゃんとこなしてるよね。敬意があるかどうかはわからないけど」

 ネロが横から口を挟んできた。だが俺はフィル様から目を離さない。フィル様が仰ったとおり、俺の主は、今もフィル様だけだからだ。
 
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