銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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「ラズール、こっちに来て」

 先に部屋に入ったフィル様が、中央の机の前で俺を呼ぶ。ここはフィル様の部屋だ。いつ帰ってきても使えるように、常に清潔に保たれている。
 俺は疲れた時などに、こっそりとこの部屋に来てフィル様との思い出にひたいやされていた。でも今は実物のフィル様がいる。手を伸ばせば触れる距離にいる。入口にいるトラビスが邪魔だが、俺は今、幸福感に包まれている。
 ふとフィル様の背後の机に、黒い布に包まれた長い物が置いてあることに気づいた。あんな物、この部屋に置いてあったか?フィル様が持ってきたのか?
 その謎はすぐに解けた。

「ラズール、誕生日おめでとう。これ、僕とリアムからのプレゼントだよ」
「…え?」

 フィル様が笑って、机の上の黒い布の塊を手に取り俺に差し出す。
 受け取ったそれは、ズシリと重い。

「フィル様…俺のために…このために、わざわざ来てくださったのですか?」

 俺の声が感動で震える。自身の誕生日などすっかり忘れていた。それなのにフィル様は、異国から日数をかけて、プレゼントを持って来てくれた。嬉しい。とても嬉しい。
 俺が包みを両手で握りしめて感動していると、フィル様が耳に心地よい声で笑った。

「うん。これが一番の目的だけど、他にも用事があったから来たんだ。ところで中を見てみてよ」
「はい」

 他の用事とは何か気になったが、期待するように輝く緑の瞳に急かされて、俺は布を取った。現れた物を見て、トラビスが声を上げる。

「すごい!綺麗だな」
「ああ、これを俺に…?」

 布で包まれた物は、つかさやに宝石がはめ込まれた剣だった。柄には握るのに邪魔にならない程度に、緑と青の小さな石がはめ込んである。鞘にも控えめにつたの模様が彫られ、緑と青の石が上品な配置で散りばめられている。
 フィル様が指で鞘の石に触れながら言う。

「緑の石は僕の瞳を、青の石はラズールの瞳を表してるんだ。紫の石も入れたかったんだけど、リアムにやめた方がいいと止められちゃった」
「そうですね、それでいいです」

 俺は深く頷き、剣をじっくりと観察する。
 第二王子のことは気に入らないが、紫の石を入れたいと言うフィル様を止めてくれたことは感謝する。なぜ俺が、あの王子の瞳と同じ色の石がついた物を持たねばならないのだ。心底嫌だ。これに紫の石がついてなくて良かった。それに青い石もなくてもよかった。俺としては緑の石だけでよかったと思っている。でも…本当は石が何色でもいいのだ。フィル様が、俺のことを思って考えてくれただけで満足なのだから。
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