銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

文字の大きさ
上 下
401 / 451

40

しおりを挟む
「フィル様これを」
「なに?」

 部屋を出る直前に、ゼノから折りたたまれた布を渡された。ずしりと重い布は、リアムのマントと同じ色だ。
 僕はこれが何かを察してリアムを見た。
 リアムが笑って頷き、僕の手から布を取って広げる。

「わあ…いいの?僕がこれを身につけても」
「いい。これは兄上が…王が準備してくれたものだ」
「え…クルト王子…王が?」
「俺は城を出たが、まだ王族に籍があるらしい。だから伴侶であるフィーも、これを身につけるべきだと」
「ほんとに?嬉しい」

「ただ…」とリアムがマントの刺繍の箇所を僕に見せる。

「フィーのこれは、俺のと比べて刺繍部分が少ない。ほら…こんなふうに裾に少し縫われているだけで質素なんだ。すまない…」
「どうして謝るの?すごく素敵だよ!リアムとお揃いで嬉しいよっ」
「だがこれをまとうと、おまえのキレイな服が隠れてしまうな」
「いいよ、目立ちたくないもの。これだと皆リアムの方を見るでしょ」
「それはどうかな。濃い色の服を着てる時ほど、おまえの銀髪が美しく映えるからな。おまえが注目されるかと思うと面白くない」
「えー、リアムは心配性だねぇ。そんなこと思うのリアムだけだよ。ゼノもそう思うでしょ?」

 僕は後ろに控えるゼノに聞く。
 ゼノは頷きながらリアムの手からマントを取って、僕の肩にかけてくれた。

「そうですね、リアム様は過保護が過ぎますからね。でも確かに…こうして見ると、後ろに流した銀髪が絹の糸のようにサラサラとして輝いて…とても美しいですよ」
「ゼノまでそんなことを言う。でも、褒めてくれてありがとう」
「真実を述べたままです。あ、リアム様、そんな怖い目で俺を見ないでください。リアム様もとても美しいですよ。お似合いのお二人です。さ、早く参りましょう。クルト様よりも遅れて入ったら、あなた達が主役になってしまいます」
「口の達者なヤツめ」
「お褒めいただきありがとうございます」
「褒めてはいない」
「素直じゃありませんねぇ」
「おいっ」

 リアムとゼノの軽快なやり取りに、僕は声を出して笑う。

「ふふっ、二人は本当に仲がいいね。続きは帰ってからにしてね。今は早く王の間へ行こう」

 歩き出そうとした僕を、リアムがいきなり抱きしめた。でもすぐにゼノに引き剥がされる。

「ちょっと!何してるんですか!マントと服がシワになってしまいます!それにキレイに整えた髪も乱れてしまうっ」
「うっ…悪い。フィーはいつもかわいいが、今日はより一層かわいくて触れたくなった」
「即位式が終わった後で、いくらでも触れてください。それまでは理性を保ってください」
「…できるかな」
「リアム様!」
「わかったよ」

 兄弟のような二人を見ていると楽しい。
 即位式に出席するにあたって、粗相をしないかとか好奇の目で見られるかなとか不安だったけど、一気に気持ちが晴れた。僕はリアムのマントを掴んで引き寄せ、軽くキスをする。

「フィー?」
「今はこれで我慢してね」
「善処する…」

 真面目な顔で頷くリアムに僕はまた笑うと、リアムの手をしっかりと握りしめて足を前に出した。
 大きくて温かいリアムの手。出会った時から、僕を守り続けてくれている。そしてこれからも、僕を幸せな未来へと導いてくれる手だ。
 この手を僕は決して離さない。もし僕が離そうとしても、この手が離してくれないとわかっている。
 リアム、僕を見つけてくれて、僕の手を掴んでくれてありがとう。僕はあなたの隣で、こんなにも輝けるんだ。僕を光のもとに連れ出してくれてありがとう。リアムと出会って、僕は生まれてきてよかったと心から思えるようになったんだ。リアムが僕を幸せにしてくれたように、これからは僕もリアムを幸せにしたい。とりあえずは式が終わったら、たくさん甘やかせてあげるから。
 ふと視線を感じて横を向く。
 ゼノが僕を見て微笑んでいる。

「なあに?」
「いえ…フィル様は、リアム様の隣にいる時、とても笑顔が眩しいと思いまして。今も、とても輝いていらっしゃいますよ」
「そ、そう…?恥ずかしいな…」

 僕は両手を頬に当てて下を向く。

「なにも恥ずかしくなどありません。あなたの眩しい笑顔は、周りの者を幸せな気持ちにさせます。それにリアム様も同じです。お二人ともが、輝いて見えますよ」
「ゼノ、おまえはいいこと言うな。よくわかっている」
「どれだけリアム様と一緒にいると思ってるのですか。さ、お話はまた後で。急ぎましょう」
「ああ。フィー」
「うん」

 リアムが僕の手を握り直すと「走るぞ」と駆け出した。僕とリアムの後ろから、ゼノが「走ってはダメです!」と怒りながら追いかけてくる。
それを見たリアムが笑い、僕も笑う。僕とリアムは笑いながら、廊下の先の、窓から降り注ぐ光の中に向かって走り続けた。


(終)
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

左遷先は、後宮でした。

猫宮乾
BL
 外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~

乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。 【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】 エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。 転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。 エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。 死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。 「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」 「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」 全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。 闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。 本編ド健全です。すみません。 ※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。 ※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。 ※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】 ※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

処理中です...