銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 リアムに手を引かれながら歩いていると、部屋とは違う方角へ向かっていることに気づいた。
 この城の中はよくわからない。だからリアムに任せて僕は黙ってついていく。廊下を曲がり階段を上がって小さな扉の前に来た。
 リアムが取手を握って押すと、扉は簡単に向こう側へと開いた。中はリアムの部屋の半分くらいの広さで、小さなベッドや棚らしき物に大きな布がかけられている。
 僕は中を見回しながら「ここは?」と聞いた。

「俺が子供の頃に使っていた部屋だ。今は二階に俺の部屋があるが、昔はここ四階に父上と母上、俺の部屋があった」
「そうなんだ。クルト王子の部屋は?」
「兄上とその母親の部屋は三階だった。俺がこの場所を気に入って、ここに部屋を作ってもらった。母上は俺のことが心配で隣の部屋に移ってきた。母上と離れたくなかった父上もついてきたのさ」
「ふふっ、リアムの母上はバイロン王にとても大切に想われていたんだね」
「そうだな。まあそのせいで、兄上の母親は、俺たち親子のことを嫌ってたんだけど」
「複雑だね…」

 僕はリアムを見上げて呟く。
 自分の愛する人が、他の人を愛してるなんて辛いだろう。イヴァル帝国では、代々女王には一人の伴侶しかいなかった。僕の母上も、父上だけだ。本来ならリアムも、たくさんの妻を娶ってもいい身分だ。だけど僕を選んでくれた。僕だけを愛してくれる。僕が愛する人が、僕だけを愛してくれるってことはもう、奇跡だと思う。姉上も、愛する人を見つけて幸せになってもらいたかった。次は健康な身体で生まれて、どうか幸せにと願わずにはいられない。
 ふいに頬を撫でられて、リアムと目を合わせる。考えごとをして、ぼんやりとしてしまった。

「フィーは優しいから、兄上親子のことを心配してるんだろ?大丈夫だ。兄上の母親は正妃だし、父上も大事にしている。ただ王妃は、自分よりも身分の低い出自の俺の母上が、大切にされていることが気に入らなかったんだ。それに母上が意地悪をされるたびに、ラシェット伯父上が厳しく抗議していたし、母上を慰めていたから、母上もそんなに落ち込んだりしなかったよ」
「でも…リアムも辛かったんじゃ」
「全く。俺は王妃に言い返してたから余計に怒らせてたな」
「なにを言ってたの?」
「くそババアとか意地悪ババアとか」
「えー…それはひどいよ」

 元は王妃が悪いとはいえ、王妃はきっと強い矜恃を持ってただろうに、そんなことを言われたら、そりゃあリアムのことを憎らしく思うだろう。
 王妃のことを少し気の毒にも思ったけど、文句を言う幼いリアムを想像して、僕は思わず笑ってしまった。
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