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一晩中リアムに抱きしめられて眠り、朝になる頃には嫌な気持ちが薄れていた。全て消えた訳じゃないけど、目覚めてリアムの顔を見ていると、昨日のことは些細なことのように思えてきた。
明日の即位式が終われば、僕とリアムは家に帰る。穏やかな日々に戻るんだ。だからもう、嫌なことは忘れたい。
そう願ったけど、第二王子を襲うなどという大事件が、簡単には終わるわけがない。
僕とリアムは、朝餉の後にクルト王子に呼ばれて会いに行った。リアムの部屋から遠く、奥まった場所にある部屋の扉は、厳重な結界が張られている。僕達を案内したクルト王子の側近らしい騎士が中へ声をかけると、扉が白く光って内側に開いた。
「入れ。よく来たな」
「久しぶりだな、兄上。来て早々、面倒な目にあった」
「話は聞いてる。災難だったな」
「全くだ」
中へ入るなり、リアムが愚痴をこぼす。
クルト王子は相変わらず無表情だけど、言葉からリアムに同情してるように感じる。
クルト王子がリアムから僕に視線を移したので、僕はかすかに微笑んだ。
「クルト王子、おめでとうございます。この度は招待していただきありがとうございます」
「いや…来たくなかっただろうが、リアムを呼ばないわけにはいかなくてな。しかもフィルにも嫌な目に合わせてしまったようだ。すまない」
部屋の中央にいたクルト王子が、僕達の前に来た。そして謝りながら目を伏せたので、僕は慌てて止めた。
「えっ…いや、クルト王子のせいではないでしょ?謝らないでっ。…え、もしかしてクルト王子の差し金…」
「いや、さすがの俺もあんな姑息なことはしない。心外だ」
「…ごめんなさい」
「フィー、謝らなくていい。兄上が疑われるのも無理はない。俺に毒を盛ったことがあるからな」
「そのことはもう言うな。反省している」
「ふっ、冗談だよ。俺も今は何とも思っていない」
リアムが笑いながらクルト王子の肩を叩くけど、目が怖い。本当に許してる?
クルト王子がリアムの手を退けると、ソファーに座りながら僕達にも座るよう促した。
「昨日の女だが…誰の命でやったのかわかった。どうする、聞くか?」
クルト王子がリアムと僕の目を交互に見る。
僕がリアムを見上げると、リアムが「フィーはどうしたい?」と僕の髪を撫でた。
明日の即位式が終われば、僕とリアムは家に帰る。穏やかな日々に戻るんだ。だからもう、嫌なことは忘れたい。
そう願ったけど、第二王子を襲うなどという大事件が、簡単には終わるわけがない。
僕とリアムは、朝餉の後にクルト王子に呼ばれて会いに行った。リアムの部屋から遠く、奥まった場所にある部屋の扉は、厳重な結界が張られている。僕達を案内したクルト王子の側近らしい騎士が中へ声をかけると、扉が白く光って内側に開いた。
「入れ。よく来たな」
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「えっ…いや、クルト王子のせいではないでしょ?謝らないでっ。…え、もしかしてクルト王子の差し金…」
「いや、さすがの俺もあんな姑息なことはしない。心外だ」
「…ごめんなさい」
「フィー、謝らなくていい。兄上が疑われるのも無理はない。俺に毒を盛ったことがあるからな」
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クルト王子がリアムの手を退けると、ソファーに座りながら僕達にも座るよう促した。
「昨日の女だが…誰の命でやったのかわかった。どうする、聞くか?」
クルト王子がリアムと僕の目を交互に見る。
僕がリアムを見上げると、リアムが「フィーはどうしたい?」と僕の髪を撫でた。
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