銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 すぐにゼノとジルが来た。
 二人とも走ってきたのか、少し呼吸が荒い。

「失礼します!リアム様フィル様っ、ご無事ですかっ」
「女!動くなよっ」

 ゼノが僕とリアムの傍に来て、泣いてる僕を見て辛そうに顔を歪めた。
 ジルは素早く女の人の腕を拘束して立たせた。

「フィル様、どこかお怪我を?」
「大丈夫だ。怪我はない。ただ…心を傷つけてしまった」
「…まあ、大体のことは予想できます。この部屋に残ってる匂い、身体を動けなくする薬ですね」
「そうみたいだな。この女がお茶を持ってきたというから部屋に入れた。俺は本を読んでいたから顔も上げなかった。そうしたらいきなり布で鼻と口を塞がれて…動けなくなった」
「ああ、これですね」

 ジルがソファーの下に落ちていた小さな布を拾い上げ、ゼノに渡す。
 ゼノは布に顔を近づけて匂いを嗅いだ。

「ふむ…これは即効性があるけど効き目は短い。たぶんリアム様を襲う場面をフィル様に見せることが目的だったのでしょう。そうだな?」

 ゼノが女の人に顔を寄せて聞く。
 女の人は、俯いた顔を更に下に向けた。

「詳しくは別室で聞く。フィル様、嫌な思いをされましたね。ゆっくりとリアム様に慰めてもらってください」
「薬を嗅がされたのは俺なんだが」
「この薬は身体に害はありません。それよりも落ち込んでおられるフィル様の方が心配です。そうでしょう?」
「そうだな。おい女、誰かに命じられたにしろ自ら触れたかったにしろ、俺に触れていいのはフィーだけだ。自分のしたことを顧みて、存分に反省しろ」

 拘束された腕をジルに引っ張られた女の人が、俯いたまま「はい…」と頷いた。
 僕はずっと怒っていたけど、女の人の姿があまりにも悲しそうで、同情しかけて慌てて固く目をつむった。
 ダメだ、絶対に許さない。僕の目の前でリアムを襲おうとしたんだ。頭の中に先ほどの場面が焼き付いて消えないんだ。嫌だ。
 でも誰かに命じられてやったみたいだ。それなら女の人を怒るのは違う。でも、やっぱり許せなくて…。もう頭の中も胸の中もぐちゃぐちゃだ。
 ずっと泣き続けていると、リアムが「おいで」と僕の手を引いて隣の浴室に入った。

「あの女が触れた所をきれいに洗うよ。フィーはここで待ってて」
「…あっちで…待つ」
「ダメ。嫌なこと思い出すだろ?ここで俺を見てて」
「うん…」

 リアムが浴室に入った。
 僕はゴシゴシと袖で顔を拭う。するとリアムが慌てて飛んできて、濡らした布で優しく拭いてくれた。

「腫れるからこすったらダメだ。少し落ち着いた?」
「うん…僕、あの人に魔法…使っ…て…ぐすっ」
「気にするな。あんな優しい魔法、痛くも痒くもない。それに俺なら、殴り飛ばしていたぞ。おまえは優しいなぁ」
「殴るの…?女の人を…?」
「ああ殴る。フィーに触れる者には容赦しない」
「怖い…」
「当たり前だろ?ラズールだってそうすると思うけど」

 確かにそうだと思い、少しだけ顔が緩んだ。少し笑ったら、気持ちが楽になってきた。
 僕は「早く洗ってきて」とリアムの背中を押した。そしてゆっくりと深呼吸を繰り返している内に、ようやく涙が止まった。

 
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