363 / 451
2
しおりを挟む
ラズールが国に戻る日、朝早くから食材や生活用品を運んできたゼノも一緒に、僕とリアムはラズールを見送った。
家から馬で半刻ほど行くと大きな道がある。そこでラズールと別れた。
リアムが馬を降り、先に降りていたゼノに手綱を渡す。そして当然のように僕に手を伸ばしてきたので、僕も両手を伸ばして馬から降ろしてもらった。
僕のブーツが地面に触れたのを確認すると、リアムがラズールに振り返り声をかける。
「まあ大丈夫だと思うが、気をつけてな。いつでも遊びに来いよ」
「…どうも。もちろん来ますよ。フィル様があなたに泣かされていないかどうかを確認するために」
「泣かすものか。必ず幸せにする」
「俺にも誓ってくれますか?」
「ああ」
ラズールが馬の首を撫でて一歩こちらに近づく。そしてリアムに向かって深く頭を下げた。
「リアム様、どうかフィル様をよろしくお願いします。決して心も身体も傷つかぬよう、守ってあげてください」
「約束する」
ゆっくりとラズールが顔を上げる。その顔を見て、リアムがはは!と声を出して笑った。
「おまえ、やっと笑ったな!怖い顔をしてるより、その方がずっといいぞ」
「…フィル様以外に、なぜ笑わなければならぬのです?」
一瞬で真顔に戻ったラズールが、フイと顔を背けながら言う。
「おまえ…だって今、笑ったじゃないか…難しいヤツだな…」
リアムがブツブツと呟きながら、僕の背中を押した。
僕は押された勢いのままラズールの前に出る。
後ろを見ると、リアムとゼノが離れた場所に移動していた。
気を使って、僕とラズールを二人にしてくれたんだ。
「フィル様」
頬を撫でられて、僕は前を向く。ラズールと目が合って、笑おうとしたら涙が出た。
「泣いてくださるのですか」
「ごめんね…笑顔で見送ろうと思ってたのに…僕が戻れって言ったのに…やっぱりラズールと離れるのは寂しいよ…」
「嬉しいお言葉をありがとうございます。フィル様、何かあれば俺の名を呼んでください。すぐに駆けつけます」
「…ぐすっ、国境を挟んでるのに?」
「それでも、来ます。大切なあなたのためなら」
「わかった…そうする。ラズール、身体に気をつけてね。無理はしないでね」
「しませんよ。手を抜きつつ働きます」
「抜くのは…よくないかな」
「手を抜いたとしても、俺は優秀です」
「ふふ…そうだね」
頬に触れるラズールの手を掴んで、目を閉じる。幼い頃からの光景が頭の中に浮かんできて、ますます涙が流れ出てくる。
「フィル様、失礼を」
ラズールがそう言った瞬間、強く抱きしめられた。僕もラズールの背中に腕を回して、強くしがみつく。
もう、これが最後だ。これからは、リアムが僕を抱きしめてくれるのだから。
「もうそんなに泣かないでください。フィル様、辛い想いをした分以上に、幸せになってください。隣国から、俺はあなたの幸せを願ってますよ」
「うんっ…うん…ありがとう」
僕は何度も頷いた。
ラズールにはどれほど助けられただろう。いくら感謝しても足りない。彼がいたから生きてこれた。僕の大切な人。心からありがとうを言うよ。
家から馬で半刻ほど行くと大きな道がある。そこでラズールと別れた。
リアムが馬を降り、先に降りていたゼノに手綱を渡す。そして当然のように僕に手を伸ばしてきたので、僕も両手を伸ばして馬から降ろしてもらった。
僕のブーツが地面に触れたのを確認すると、リアムがラズールに振り返り声をかける。
「まあ大丈夫だと思うが、気をつけてな。いつでも遊びに来いよ」
「…どうも。もちろん来ますよ。フィル様があなたに泣かされていないかどうかを確認するために」
「泣かすものか。必ず幸せにする」
「俺にも誓ってくれますか?」
「ああ」
ラズールが馬の首を撫でて一歩こちらに近づく。そしてリアムに向かって深く頭を下げた。
「リアム様、どうかフィル様をよろしくお願いします。決して心も身体も傷つかぬよう、守ってあげてください」
「約束する」
ゆっくりとラズールが顔を上げる。その顔を見て、リアムがはは!と声を出して笑った。
「おまえ、やっと笑ったな!怖い顔をしてるより、その方がずっといいぞ」
「…フィル様以外に、なぜ笑わなければならぬのです?」
一瞬で真顔に戻ったラズールが、フイと顔を背けながら言う。
「おまえ…だって今、笑ったじゃないか…難しいヤツだな…」
リアムがブツブツと呟きながら、僕の背中を押した。
僕は押された勢いのままラズールの前に出る。
後ろを見ると、リアムとゼノが離れた場所に移動していた。
気を使って、僕とラズールを二人にしてくれたんだ。
「フィル様」
頬を撫でられて、僕は前を向く。ラズールと目が合って、笑おうとしたら涙が出た。
「泣いてくださるのですか」
「ごめんね…笑顔で見送ろうと思ってたのに…僕が戻れって言ったのに…やっぱりラズールと離れるのは寂しいよ…」
「嬉しいお言葉をありがとうございます。フィル様、何かあれば俺の名を呼んでください。すぐに駆けつけます」
「…ぐすっ、国境を挟んでるのに?」
「それでも、来ます。大切なあなたのためなら」
「わかった…そうする。ラズール、身体に気をつけてね。無理はしないでね」
「しませんよ。手を抜きつつ働きます」
「抜くのは…よくないかな」
「手を抜いたとしても、俺は優秀です」
「ふふ…そうだね」
頬に触れるラズールの手を掴んで、目を閉じる。幼い頃からの光景が頭の中に浮かんできて、ますます涙が流れ出てくる。
「フィル様、失礼を」
ラズールがそう言った瞬間、強く抱きしめられた。僕もラズールの背中に腕を回して、強くしがみつく。
もう、これが最後だ。これからは、リアムが僕を抱きしめてくれるのだから。
「もうそんなに泣かないでください。フィル様、辛い想いをした分以上に、幸せになってください。隣国から、俺はあなたの幸せを願ってますよ」
「うんっ…うん…ありがとう」
僕は何度も頷いた。
ラズールにはどれほど助けられただろう。いくら感謝しても足りない。彼がいたから生きてこれた。僕の大切な人。心からありがとうを言うよ。
2
お気に入りに追加
506
あなたにおすすめの小説
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
左遷先は、後宮でした。
猫宮乾
BL
外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~
乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。
【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】
エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。
転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。
エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。
死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。
「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」
「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」
全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。
闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。
本編ド健全です。すみません。
※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。
※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。
※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】
※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始

侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。

愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる