銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 ラズールが国に戻る日、朝早くから食材や生活用品を運んできたゼノも一緒に、僕とリアムはラズールを見送った。
 家から馬で半刻ほど行くと大きな道がある。そこでラズールと別れた。
 リアムが馬を降り、先に降りていたゼノに手綱を渡す。そして当然のように僕に手を伸ばしてきたので、僕も両手を伸ばして馬から降ろしてもらった。
 僕のブーツが地面に触れたのを確認すると、リアムがラズールに振り返り声をかける。

「まあ大丈夫だと思うが、気をつけてな。いつでも遊びに来いよ」
「…どうも。もちろん来ますよ。フィル様があなたに泣かされていないかどうかを確認するために」
「泣かすものか。必ず幸せにする」
「俺にも誓ってくれますか?」
「ああ」

 ラズールが馬の首を撫でて一歩こちらに近づく。そしてリアムに向かって深く頭を下げた。

「リアム様、どうかフィル様をよろしくお願いします。決して心も身体も傷つかぬよう、守ってあげてください」
「約束する」

 ゆっくりとラズールが顔を上げる。その顔を見て、リアムがはは!と声を出して笑った。

「おまえ、やっと笑ったな!怖い顔をしてるより、その方がずっといいぞ」
「…フィル様以外に、なぜ笑わなければならぬのです?」

 一瞬で真顔に戻ったラズールが、フイと顔を背けながら言う。

「おまえ…だって今、笑ったじゃないか…難しいヤツだな…」

 リアムがブツブツと呟きながら、僕の背中を押した。
 僕は押された勢いのままラズールの前に出る。
 後ろを見ると、リアムとゼノが離れた場所に移動していた。
 気を使って、僕とラズールを二人にしてくれたんだ。

「フィル様」

 頬を撫でられて、僕は前を向く。ラズールと目が合って、笑おうとしたら涙が出た。

「泣いてくださるのですか」
「ごめんね…笑顔で見送ろうと思ってたのに…僕が戻れって言ったのに…やっぱりラズールと離れるのは寂しいよ…」
「嬉しいお言葉をありがとうございます。フィル様、何かあれば俺の名を呼んでください。すぐに駆けつけます」
「…ぐすっ、国境を挟んでるのに?」
「それでも、来ます。大切なあなたのためなら」
「わかった…そうする。ラズール、身体に気をつけてね。無理はしないでね」
「しませんよ。手を抜きつつ働きます」
「抜くのは…よくないかな」
「手を抜いたとしても、俺は優秀です」
「ふふ…そうだね」

 頬に触れるラズールの手を掴んで、目を閉じる。幼い頃からの光景が頭の中に浮かんできて、ますます涙が流れ出てくる。
 
「フィル様、失礼を」

 ラズールがそう言った瞬間、強く抱きしめられた。僕もラズールの背中に腕を回して、強くしがみつく。
 もう、これが最後だ。これからは、リアムが僕を抱きしめてくれるのだから。

「もうそんなに泣かないでください。フィル様、辛い想いをした分以上に、幸せになってください。隣国から、俺はあなたの幸せを願ってますよ」
「うんっ…うん…ありがとう」

 僕は何度も頷いた。
 ラズールにはどれほど助けられただろう。いくら感謝しても足りない。彼がいたから生きてこれた。僕の大切な人。心からありがとうを言うよ。
 
 
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