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ベッドに寝かされたフィーは、いつもよりも更に白い顔をして、まるで輝いてるように見える。しかもそのまま透けて消えてしまいそうに感じて、俺は不安でたまらなくなる。
ラズールに言われて何もせずに様子を見ているが、本当にこのままでいいのか?早く蘇生をした方がいいのではないか?イヴァルの前王は、フィーを嫌っていたのだろう?その前王の魔法が発動しているということは、フィーを殺すことなんじゃないのか?
ベッドにすがりつきフィーを見ていた俺は、思わず手を伸ばしかけた。
その手を素早く掴まれて、俺はラズールを睨みつける。
「はなせ」
「大人しく見ているよう言いましたよね。フィル様に触れないでいただきたい」
「おまえの言うことは信用できない。このままではフィーが死んでしまうっ」
「大丈夫です。フィル様は前王に守られていますので」
「だからそれが信用できないって言ってるんだよ!前王はフィーを殺そうとしてたじゃないか!」
ラズールが俺の手を離してフィーを見つめる。
「それは間違いであったのかもしれません。イヴァルの者は皆、前王に欺かれていたのかもしれません」
「どういう…ことだよ」
ラズールはフィーから視線をそらさない。
「呪われた子としてフィル様に接さなければならなかったけれど、本心では守りたかったのでしょう。フィル様の身体の痣…前王が亡くなられた同時期に出現したと聞きました」
「ああ、そうらしい」
「この痣は、前王がフィル様を守るためにかけていた魔法によって出てきたのです。だから剣で突こうが斬ろうが、フィル様を傷つけることができなかった。…なぜあなたは傷つけることができたのかは、わかりませんが」
「…そのことを言ってくれるな。俺はずっと悔いている」
「そうですね。死ぬまで悔やんでください。フィル様は許しているようですが、俺は許してません」
「わかっている」
こうして話している間も、ラズールは一切フィーから目を離さない。どんな些細な変化でも見逃すまいとしているかのようだ。
俺もフィーを見た。変わらず白い肌のままで、ピクリとも動かない。
「フィル様は、自分の命と引き換えにフェリ様を助けようとなさいました。夢に前王が出てきてそうしろと言ったからと。しかしそれは、フィル様が前王に嫌われていると信じていたから見た夢だと、俺は思っています。そしてフェリ様を助けたい一心で、そうしなければと思い込んでいただけなのです。フィル様はとてもお優しい方ですから」
「…フィーが優しいのは、おまえが傍にいたからだろ。認めるのは癪だが、おまえがフィーを大切に育てたからだろ」
「…いいえ、フィル様の生まれ持っての性格です。本当にお優しくてかわいらしくて。俺の…大切な宝です」
「そうか。フィーは俺にとっても大切な宝だ。悪いな」
「…仕方ありません。フィル様があなたを選んだのですから。俺は、フィル様の幸せを願うだけです」
静かな部屋に、ラズールの低い声が淡々と響く。
ラズールのフィーへの想いが、痛いほど胸にしみ込んでくる。こいつの想いは、とんでもなく深いものなのかもしれない。好きだ愛してるという言葉では計り知れないほどに、深いものなのかもしれない。
だからと言って、俺はフィーを譲る気などサラサラない。
ラズールに言われて何もせずに様子を見ているが、本当にこのままでいいのか?早く蘇生をした方がいいのではないか?イヴァルの前王は、フィーを嫌っていたのだろう?その前王の魔法が発動しているということは、フィーを殺すことなんじゃないのか?
ベッドにすがりつきフィーを見ていた俺は、思わず手を伸ばしかけた。
その手を素早く掴まれて、俺はラズールを睨みつける。
「はなせ」
「大人しく見ているよう言いましたよね。フィル様に触れないでいただきたい」
「おまえの言うことは信用できない。このままではフィーが死んでしまうっ」
「大丈夫です。フィル様は前王に守られていますので」
「だからそれが信用できないって言ってるんだよ!前王はフィーを殺そうとしてたじゃないか!」
ラズールが俺の手を離してフィーを見つめる。
「それは間違いであったのかもしれません。イヴァルの者は皆、前王に欺かれていたのかもしれません」
「どういう…ことだよ」
ラズールはフィーから視線をそらさない。
「呪われた子としてフィル様に接さなければならなかったけれど、本心では守りたかったのでしょう。フィル様の身体の痣…前王が亡くなられた同時期に出現したと聞きました」
「ああ、そうらしい」
「この痣は、前王がフィル様を守るためにかけていた魔法によって出てきたのです。だから剣で突こうが斬ろうが、フィル様を傷つけることができなかった。…なぜあなたは傷つけることができたのかは、わかりませんが」
「…そのことを言ってくれるな。俺はずっと悔いている」
「そうですね。死ぬまで悔やんでください。フィル様は許しているようですが、俺は許してません」
「わかっている」
こうして話している間も、ラズールは一切フィーから目を離さない。どんな些細な変化でも見逃すまいとしているかのようだ。
俺もフィーを見た。変わらず白い肌のままで、ピクリとも動かない。
「フィル様は、自分の命と引き換えにフェリ様を助けようとなさいました。夢に前王が出てきてそうしろと言ったからと。しかしそれは、フィル様が前王に嫌われていると信じていたから見た夢だと、俺は思っています。そしてフェリ様を助けたい一心で、そうしなければと思い込んでいただけなのです。フィル様はとてもお優しい方ですから」
「…フィーが優しいのは、おまえが傍にいたからだろ。認めるのは癪だが、おまえがフィーを大切に育てたからだろ」
「…いいえ、フィル様の生まれ持っての性格です。本当にお優しくてかわいらしくて。俺の…大切な宝です」
「そうか。フィーは俺にとっても大切な宝だ。悪いな」
「…仕方ありません。フィル様があなたを選んだのですから。俺は、フィル様の幸せを願うだけです」
静かな部屋に、ラズールの低い声が淡々と響く。
ラズールのフィーへの想いが、痛いほど胸にしみ込んでくる。こいつの想いは、とんでもなく深いものなのかもしれない。好きだ愛してるという言葉では計り知れないほどに、深いものなのかもしれない。
だからと言って、俺はフィーを譲る気などサラサラない。
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