銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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リアムの願い

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 フィーが倒れた。
 式が終わり、広間へ移動しようとしたその時、苦しそうに呻いて倒れてしまった。
 ついに呪いがフィーの全身にまわったのだ。フィーは痛くて苦しそうにしている。
 俺は急いで治癒魔法をかけた。全力でかけた。だがちっとも効かない。
 ラズールもフィーの手を握りしめて治癒魔法をかけていたが、全く効かなかった。
 そのうちフィーの全身から力が抜けて、呼吸が浅くなった。
 俺は呆然とした。頭が真っ白になって、動けなくなった。
 待ってくれ…フィーが死ぬ?いや、聞いてはいたが、信じたくなくて、考えたくなくて、まだ俺は、覚悟ができてない。どうすればいい?俺は…なにをすれば。

「リアム!何をしているっ。早くフィルを部屋へ運べ!」

 頬に衝撃を受けて、正気に戻った。
 伯父上が怖い顔で怒鳴っている。
 そうだ。ほうけてる場合じゃない。俺は諦めない。フィーを助けるんだ!
 ふと横を見ると、ラズールが妙に落ち着いた様子でフィーを見ている。
 俺は察した。こいつ、フィーの後を追うつもりだ。フィーが息絶えた瞬間、自害するつもりなんだ。バカめ。そんなことをしてフィーが喜ぶとでも思ってるのか?そもそも、フィーを死なせやしない!
 俺はフィーを抱き上げると、ラズールに怒鳴った。

「ラズール!俺はフィーを死なせない!だからくだらないことを考えるなよっ!ついて来いっ」
「…くだらないことではない」
「いいから!とにかくついて来いっ」

 俺は走った。礼拝堂から俺達の部屋まで、一度も止まらずに走り抜けた。
 部屋に入るとフィーをベッドに寝かせ、上着とシャツを脱がせる。

「あっ!痣が…」

 フィーは痣の呪いで死にかけている。だからもっと痣が増えていると思っていたのに、逆に消えかけているではないか。

「どういうことだ?消えかけてる…。ということは、痣が消えればフィーは助かるのでは?」
「なぜ…。…もしや、そういうことかっ」
「ラズール、なにか思い当たることがあるのか?」

 青ざめた顔のラズールに聞くと、「いえ、わかりません…」と目を伏せた。
 ラズールの様子が気になったが、今はそれどころではない。
 
「フィーに体力回復の魔法をかける。心音が弱くなっているから、少しづつかけていく。ゼノ、俺が飲むための栄養剤を用意しておいてくれ!」
「はっ!」

 俺は上着を脱ぎ捨て、シャツの袖をめくった。そしてフィーの胸に手のひらを当てて、全身が凍りついた。

「そ…な…」
「リアム様?」
「リアム、どうした?」

 ゼノと伯父上が、不思議そうに聞いてくる。
 ラズールが「フィル様!」とベッドに飛びつく。
 俺は震えた。フィーの肌は温かいのに、心臓が止まった。
 どう…すれば。治癒魔法で心臓を動かす?そんなこと…できるのか?どうすればいい?俺は…なんとしてもフィーを助けて…。

「フィー…」

 俺は、ゆっくりとフィーを抱きしめた。
 まだ身体はこんなにも温かい。甘い香りだってする。なのに、心臓が止まってしまった。もう、どうしようもないのか…。
 その時、肩を強く引かれた。
 振り向くと、ラズールが俺をフィーから引き剥がそうとしていた。

「離れてください」
「…ラズール…フィーが…」
「死んではいません。離れて様子を見ていてください」
「でもっ…心臓が止まって…っ」
「一度は止まりましたが、必ず動き出します。今、前王がかけた魔法が発動してます。大人しく見ていてください」
「前王の魔法…?」

 ラズールが深く頷く。
 フィーのことを一番に思うラズールが、落ち着いている。ということは、本当に大丈夫なのだろうか。
 俺は身体を起こすと、大人しくフィーを見守った。
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