330 / 451
37
しおりを挟む
ベッドの中にリアムの姿がない。部屋にもいない。手を伸ばすとシーツに温もりが残っているから、先ほどまではいたんだと、目を擦りながら起き上がる。
起き上がった拍子に、身体にズキンと痛みが走ったが、うん、まだ大丈夫。ガマンできる。
僕はベッドを降りると、棚の上にキレイに畳んで置かれてるシャツとズボンを手に、隣接する洗面所の扉を開けた。
白い陶器でできた大きな器に手をかざすと、上部に空いた穴から水が出てくる。それを手にすくって顔を洗い、跳ねた髪を整える。同じく陶器でできた台に積まれた良い香りの布を手に取り顔と湿った髪を拭く。そして丈の長いワンピースのような夜着を脱ぎ、鏡に映った自身の裸を見た。
白い肌に広がる黒い蔦のような模様。蔦の先に無数に咲く小さな赤い花。目を背けたくなるおぞましさだというのに、リアムやラズールは、これを美しいと言う。
僕は小さく苦笑してクルリと向きを変え、背中を映した。そして息を飲んだ。
「あ…あ…」
背中に広がる蔦の先にも、赤い痣が出始めている。今はまだ全体には広がっていないけど、あと数日で、全身に赤い花が咲くだろう。
「リアム…どう…しよう…」
覚悟をしていた。物心がついた頃から呪われた子だと言われ続け、いつ死んでもいい覚悟はできていた。
だけどリアムと出会い、愛されること愛することを知って、欲ができた。幸せになりたいと願ってしまった。
皆の前では冷静な振りをしていたけど、本心は怖い。病や戦死ではなく、呪われて死ぬということは、どんな苦しみを伴うのだろうか。
僕は震える手でシャツを着て、ボタンを止める。しかし小刻みに震える手では、うまく止めることができない。
その時、扉を叩く音と共にラズールの声が聞こえた。
「フィル様、おはようございます。お目覚めですか?第二王子にフィル様を呼ぶよう、偉そうに命じ……言われましたので呼びに来ました」
「…ラズー…ル…」
ラズールを呼んだけど、口の中で掠れた声しか出なかった。
だけどラズールは僕の声を聞き取ったらしく、すぐに洗面所で立ち尽くす僕の元へ来た。
涙目で震える僕の肩を掴み、顔を覗き込む。
「どうされたのですか?もしや痣が痛いのですか?」
「ちが…ラズール…」
「俺の前でウソはダメですよ。正直に話してください」
僕はラズールの上着を掴んで涙を流した。
「怖い…ほんとは…怖いんだ」
「…そうでしょうとも」
「背中にも…赤い痣が出てきた。僕の死が…近づいてる…」
ラズールが急いでシャツのすき間から背中を覗く。そして僕を抱きしめる。
「あなたを一人では逝かせません。俺がついてますよ」
「ラズールっ」
僕はラズールの胸に顔を埋めた。
幼い頃から何かある度に抱きしめ続けてくれた、優しく力強い腕の中で、僕は声を上げて泣いた。
起き上がった拍子に、身体にズキンと痛みが走ったが、うん、まだ大丈夫。ガマンできる。
僕はベッドを降りると、棚の上にキレイに畳んで置かれてるシャツとズボンを手に、隣接する洗面所の扉を開けた。
白い陶器でできた大きな器に手をかざすと、上部に空いた穴から水が出てくる。それを手にすくって顔を洗い、跳ねた髪を整える。同じく陶器でできた台に積まれた良い香りの布を手に取り顔と湿った髪を拭く。そして丈の長いワンピースのような夜着を脱ぎ、鏡に映った自身の裸を見た。
白い肌に広がる黒い蔦のような模様。蔦の先に無数に咲く小さな赤い花。目を背けたくなるおぞましさだというのに、リアムやラズールは、これを美しいと言う。
僕は小さく苦笑してクルリと向きを変え、背中を映した。そして息を飲んだ。
「あ…あ…」
背中に広がる蔦の先にも、赤い痣が出始めている。今はまだ全体には広がっていないけど、あと数日で、全身に赤い花が咲くだろう。
「リアム…どう…しよう…」
覚悟をしていた。物心がついた頃から呪われた子だと言われ続け、いつ死んでもいい覚悟はできていた。
だけどリアムと出会い、愛されること愛することを知って、欲ができた。幸せになりたいと願ってしまった。
皆の前では冷静な振りをしていたけど、本心は怖い。病や戦死ではなく、呪われて死ぬということは、どんな苦しみを伴うのだろうか。
僕は震える手でシャツを着て、ボタンを止める。しかし小刻みに震える手では、うまく止めることができない。
その時、扉を叩く音と共にラズールの声が聞こえた。
「フィル様、おはようございます。お目覚めですか?第二王子にフィル様を呼ぶよう、偉そうに命じ……言われましたので呼びに来ました」
「…ラズー…ル…」
ラズールを呼んだけど、口の中で掠れた声しか出なかった。
だけどラズールは僕の声を聞き取ったらしく、すぐに洗面所で立ち尽くす僕の元へ来た。
涙目で震える僕の肩を掴み、顔を覗き込む。
「どうされたのですか?もしや痣が痛いのですか?」
「ちが…ラズール…」
「俺の前でウソはダメですよ。正直に話してください」
僕はラズールの上着を掴んで涙を流した。
「怖い…ほんとは…怖いんだ」
「…そうでしょうとも」
「背中にも…赤い痣が出てきた。僕の死が…近づいてる…」
ラズールが急いでシャツのすき間から背中を覗く。そして僕を抱きしめる。
「あなたを一人では逝かせません。俺がついてますよ」
「ラズールっ」
僕はラズールの胸に顔を埋めた。
幼い頃から何かある度に抱きしめ続けてくれた、優しく力強い腕の中で、僕は声を上げて泣いた。
2
お気に入りに追加
506
あなたにおすすめの小説
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
左遷先は、後宮でした。
猫宮乾
BL
外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~
乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。
【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】
エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。
転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。
エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。
死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。
「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」
「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」
全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。
闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。
本編ド健全です。すみません。
※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。
※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。
※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】
※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始

侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。

愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる