銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 家の中には、ベッドが置かれた部屋が三つと食堂とソファーがある広い部屋が一つ。僕が寝ていた部屋が一番広くてベッドも大きい。
 僕はリアムの首に鼻を擦り寄せて聞く。

「ねぇ、もしかして僕が寝ていた部屋が、リアムと僕の寝室なの?」
「そうだ。毎晩フィーの顔を見て、フィーに触れて眠れる。こんなに幸せなことはない」
「ん…僕も。他の部屋は何に使うの?」
「残りの部屋は客室だ。俺とフィーの二人の家だが、ゼノが心配だから様子を見に来ると言って聞かない。ラズールだってそうだろ。だからアイツらが泊まれるように作らせた。それに…おまえの友達も呼べるぞ」
「友達…?僕に友達なんて」
「いるだろう?この国に」
「…え、あっ、ノアのこと?」
「そうだ。明るくなったら外に連れて行ってやる。ここはノアの家からも近いからな」
「え!そうなの?嬉しいっ」

 僕はパッと顔を輝かせてリアムを見た。紫の瞳に映る僕の顔がとても嬉しそうだ。だけどすぐに曇ってしまう。ノアとはもっと仲良くなりたかったけど、時間が足りない。何回くらい呼べるのかな…。

「フィー?どうした…」
「……」

 僕は無言でリアムを見つめた。
 やはりリアムには正直に話そう。どうして僕が王位を譲ってリアムのもとへ来たのか。辛いことだけど、ちゃんと話そう。 
 でもそれは、ラズールの料理を食べてから…。

「ん…少しだけ、夢じゃないかなぁって思っちゃった。僕は呪われた子として生まれて、幸せになれないと思っていたから…。こんなに幸せで…夢みたいで…」

 あ、また泣いてしまった。リアムの前だと、すぐに気が緩んで泣いてしまう。でも、リアムが優しくなぐさめてくれるから、いいや。

「夢じゃない、現実だ。俺はおまえの泣き顔もかわいくて好きだが、これからは嬉しい涙しか流させないからな。悲しい思いはさせないからな」
「うん…」

 ごめんねリアム。僕は、リアムに悲しい思いをさせてしまう。悲しい涙を流させてしまう。そのことを考えると、ひどく胸が痛いよ…。
 リアムが僕のまぶたにキスをする。頬にも鼻にも唇にもキスをしていると、「こんな所で何をしているのですか」と低く冷たい声が聞こえてきた。
 声が聞こえた方へ目をやると、恐ろしい顔のラズールが立っていた。

「何って…家の中を案内してるのだが?」
「フィル様が泣いてるように見えるのですが?」
「これは、これからの俺との暮らしを思って流してる、幸せな涙だ」
「…食事の用意ができました。部屋にお戻りください」
「わかった」

 ラズールが頭を下げて、背を向ける。
 ラズールの後をついて行きながら、リアムが僕の耳に顔を寄せて囁く。

「なんだアイツ…大人しく引き下がったぞ。珍しいな」
「そうだね…」

 ラズールは、僕の命が残り少ないことを知っている。僕の最期を見届ける覚悟で傍にいる。
 僕はラズールの背中を見つめて、小さく「ごめんね…ありがとう」と呟いた。
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