銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 国境を越えると、ゼノとジルが待っていた。
 僕とラズールが走り出すのを見て、ゼノが慌てて手を前に突き出して止める。

「ああ、大丈夫ですよ!そんなに急がなくても」
「ゼノ!でももう、軍は出発しちゃったんだろ?」
「今夜の宿の場所がわかっていますから、夜までにそこに着けば大丈夫ですよ」
「でもっ」

 ゼノとジルの前につき、僕はハアハアと荒い呼吸を繰り返す。少し走っただけで疲れるなんて、体力が落ちてるのかな。これも呪いのせいなのかな。隣のラズールは、息一つ乱れてないのに。
 ラズールが、僕の背中を優しく撫でる。

「大丈夫ですか?無理をしてはダメですよ」
「うん…情けなくてごめん」
「情けなくなどありません。フィル様は三ヶ月前に死にかけたのですから。体力がまだ戻ってなくても仕方ありません」

「あ…」と声がして顔を上げると、ジルが勢いよく頭を下げた。

「フィル様っ、申しわけありませんでした!俺のせいで大変な目にっ!」
「え、待って?どうしてジルのせいなの?」

 僕は目を丸くして、ジルの暗めの茶髪を見つめる。
 ジルは尚も頭を下げたまま、言葉を続けた。

「俺がクルト王子の嘘を信じたせいです。それにフィル様が俺にかけた魔法は、見せかけだけで大して強くかけていなかった。それを早くリアム様に伝えていれば、フィル様が斬られることを防げていたはずです。俺は、あなたにどれだけ謝っても許されないことをしたのです…」
「ふふっ、大げさ」

 僕は手を伸ばして、見た目に反して柔らかい髪の毛に触れた。
 ジルが驚いて顔を上げたので、手が届かなくなってしまう。

「ああ、もっと触りたかったのに。ジルの髪の毛は柔らかいね」
「え?いやっ、どうも…ありがとう…ございま…す」
「フィル様」

 ラズールが僕の右手を掴んで、自身のマントで丁寧に拭く。

「なにしてるの?」
「むやみに触れてはなりません。あなたは油断しすぎる」
「でもゼノもジルもリアムが信頼する部下だよ。味方だよ?」
「だとしてもです。ダメです。…第二王子も嫌がりますよ、きっと」
「リアムが?どうして?」
「……」

 ラズールが黙ってしまった。黙ったまま僕の手を放して後ろに下がる。
 僕が首を傾げたままゼノとジルを見ると、二人も困った顔をしていた。

「ラズールが何を言ってるのかよくわからないんだけど…。ジル、勝手に触れてごめんね」
「いえっ、嫌だなどと露とも思いません。フィル様は、誰にでも分け隔てなく、お優しい方ですね。以前に失礼な口を聞いたこと、お許しください」
「許すもなにも…僕が身分を偽って潜入してたのだから。ゼノとジル、リアムを救い出すまで、よろしくお願いします」
「こちらこそ。どうか無茶だけはなさらぬよう願いますよ」
「うん、わかってる」

 僕は二人の目を交互に見て、深く頷く。
 二人は、僕の命が少ないことを知らない。イヴァル帝国の呪いのことは、イヴァルの者だけが知っていればいい。二人には、僕がいなくなった後の、リアムを支えてあげてほしい。自惚れるわけじゃないけど、僕がいなくなったらリアムはすごく悲しむと思うから。二人や、他にもいるというリアムを慕う人達で、支えてあげてほしい。
 僕はラズールとゼノ、ジルの前に出ると「早くリアムを助けに行こう」と足を踏み出した。

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