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朝餉を食べ終えてトラビスとレナードが出て行った。そしてすぐにトラビスがラズールと共に、クルト王子をつれて戻ってきた。
クルト王子の両手は拘束されたままだ。
僕はクルト王子に椅子に座るようにすすめ、天幕の隅にいたぜノにも座るように言う。
「ゼノもこっちに来て座って」
「はい」
「ふん、ゼノは拘束されてないのだな。やはりリアムと貴様は以前から繋がっていた」
「リアムは僕の命の恩人です。王子の立場とか関係なく二人で旅をしました。僕にとって大切な人です」
「国よりもか?」
クルト王子の言葉が胸に鋭く刺さる。でも僕の気持ちは揺らいだりしない。
「はい。比べられるものではないけれど、僕はリアムを選びます」
「ははっ!とんだ王様だな。国よりも一人の男を選ぶのか!」
「…もし僕に時間があれば、両方を選びます。でももう、時間がない。それならば後悔しない方を選びたい…」
「時間とは?」
僕はハッとして、顔を上げてクルト王子を見た。 危ない。僕の命が短いことを知られてはいけない。リアムに会いに行こうとしていることを気づかれてはならない。
「クルト王子には関係のないことです。王子は昨日、僕に興味などないと言ってましたよね?どうかお気になさらず。速やかに軍を撤退させることだけを考えてください」
「ふん、口が立つのが小賢しい」
「それは褒め言葉ですか?」
「知らぬ。では早く俺を国境へ連れて行け。もう一人の俺の部下はどうした?」
「先に国境へ行ってもらいました。クルト王子には、行く前にやっていただくことがあります」
「なんだ?」
「こちらに名前を書いてください」
僕はクルト王子の目の前に、紙を差し出した。
必ず軍を撤退させるという、誓約書だ。
クルト王子は黙って紙を見つめた後に、素直に筆を受け取ると、腕を拘束されたまま、器用に名前を書いた。
僕は紙を手に取り、トラビスに渡す。そしてクルト王子に微笑む。
「ありがとうございます。拒否されると思ってたので、少し驚きましたよ」
「俺を見くびるな。こちらこそ驚きだ。二度とイヴァル帝国に攻め入るなと誓わせればいいものを。なぜそこまで書かなかった?」
「二度と攻め込まないと約束してくださるのですか?」
「いや、先のことはわからぬ」
「それならば、今は撤退してくれるだけで十分です。今後は僕とは違う王が、あなた方の相手をしてくれる」
「誰だそれは」
「ふふっ、いずれ会えますよ。では行きましょうか。国境に着いたら、剣を返します」
「ふん、なんとも気味の悪い王と国だな…」
先に天幕を出た僕の後ろから、クルト王子が言葉を投げる。
「それは褒め言葉として受け取っておきます」
僕はゆっくりと振り向くと、クルト王子に向かって優雅に微笑んだ。
クルト王子の両手は拘束されたままだ。
僕はクルト王子に椅子に座るようにすすめ、天幕の隅にいたぜノにも座るように言う。
「ゼノもこっちに来て座って」
「はい」
「ふん、ゼノは拘束されてないのだな。やはりリアムと貴様は以前から繋がっていた」
「リアムは僕の命の恩人です。王子の立場とか関係なく二人で旅をしました。僕にとって大切な人です」
「国よりもか?」
クルト王子の言葉が胸に鋭く刺さる。でも僕の気持ちは揺らいだりしない。
「はい。比べられるものではないけれど、僕はリアムを選びます」
「ははっ!とんだ王様だな。国よりも一人の男を選ぶのか!」
「…もし僕に時間があれば、両方を選びます。でももう、時間がない。それならば後悔しない方を選びたい…」
「時間とは?」
僕はハッとして、顔を上げてクルト王子を見た。 危ない。僕の命が短いことを知られてはいけない。リアムに会いに行こうとしていることを気づかれてはならない。
「クルト王子には関係のないことです。王子は昨日、僕に興味などないと言ってましたよね?どうかお気になさらず。速やかに軍を撤退させることだけを考えてください」
「ふん、口が立つのが小賢しい」
「それは褒め言葉ですか?」
「知らぬ。では早く俺を国境へ連れて行け。もう一人の俺の部下はどうした?」
「先に国境へ行ってもらいました。クルト王子には、行く前にやっていただくことがあります」
「なんだ?」
「こちらに名前を書いてください」
僕はクルト王子の目の前に、紙を差し出した。
必ず軍を撤退させるという、誓約書だ。
クルト王子は黙って紙を見つめた後に、素直に筆を受け取ると、腕を拘束されたまま、器用に名前を書いた。
僕は紙を手に取り、トラビスに渡す。そしてクルト王子に微笑む。
「ありがとうございます。拒否されると思ってたので、少し驚きましたよ」
「俺を見くびるな。こちらこそ驚きだ。二度とイヴァル帝国に攻め入るなと誓わせればいいものを。なぜそこまで書かなかった?」
「二度と攻め込まないと約束してくださるのですか?」
「いや、先のことはわからぬ」
「それならば、今は撤退してくれるだけで十分です。今後は僕とは違う王が、あなた方の相手をしてくれる」
「誰だそれは」
「ふふっ、いずれ会えますよ。では行きましょうか。国境に着いたら、剣を返します」
「ふん、なんとも気味の悪い王と国だな…」
先に天幕を出た僕の後ろから、クルト王子が言葉を投げる。
「それは褒め言葉として受け取っておきます」
僕はゆっくりと振り向くと、クルト王子に向かって優雅に微笑んだ。
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