銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 少ししてラズールが僕の左腕から手を離した。でも抱きしめる腕の力は緩めてくれない。
 僕はくぐもった声で「苦しいよ…」と文句を言う。

「すいません…力の加減ができません…。フィル様はその痣が現れたから、王の座を譲ると言い出したのですか?」
「そうだよ。僕は心のどこかで、呪いなんてただの噂かもしれないと思ってた。でも僕にかけられた呪いは、本物だった。僕が王になったから、バイロン国が攻めてきた。王になったから、もうすぐ死ぬんだ…」
「でもっ、あなたがなりたくてなったんじゃない!フェリ様が亡くなられて、仕方がなかった!それに…男が女のフリをして王になった例があると大宰相から聞いてますっ」
「ああ」

 僕は小さく首を振る。
 母上の部屋の引き出しの底に隠されていた本を読んで、わかったんだ。初代女王から今日までの三百年余り、王になった男はいない。女のフリをして王になった男もいない。僕を姉上の代わりに王にするための、ウソだったんだ。
 ラズールの胸から顔を上げて、ラズールの目を見ながら、そのことを告げる。
 いつも表情の乏しい端正な顔が、みるみる険しくなり「うそだっ」と叫ぶ。
 僕はラズールが泣いてるように見えて、思わず手を伸ばした。だけどその手を掴まれた。

「痛い…緩めてよ」
「では呪いは本当に…?」
「だからそう言ってるだろ?おまえは聡いんだから理解してよ」
「…そのようなこと、理解したくありません」
「してよ。だからね、死ぬ前に王の座をネロに譲りたいと思ってる。僕と同じ銀髪のネロも、イヴァルの正当な王族だから。それにネロには呪いがかけられていないから」
「どうしてわかるのですか?それに譲った後は…どうされるおつもりですか」
「リアムに会いに行くよ。死ぬ前にリアムに会いたい。僕の気持ちを伝えたい。リアムの腕の中で死にたい」
「嫌です。行かせたくありませんっ」
「うん、そう言うだろうと思った。…ラズール、おまえが望むようにはできないけど、どうしたいか話してみて」
「俺はっ…」

 ラズールが、掴んでいた僕の手にキスをする。そして頬に当てながら目を閉じる。

「俺の傍にいてほしい。あなたが本当に呪いで死ぬというのなら、俺の腕の中で…眠ってほしい。俺はあなたを送った後、すぐに追いかけます」
「僕を追って死ぬの?」
「ええ。俺の生きる目的が無くなりますから。あなたがいない世界で生きてはいかれません」
「ありがとう…ラズール」

 僕の声に、ラズールが目を開ける。
 僕はラズールに微笑んだ。

「でもダメだよ。おまえは死んではダメ。これは命令だよ」
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