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「そうですね」とトラビスが剣をカチャリと鳴らす。
僕はトラビスの腕に触れて止め、クルト王子の名を呼んだ。
「クルト王子、あなたを殺しません。イヴァル帝国を攻めようとしたり、リアムに毒を飲ませたあなたのことは、嫌いです。だけど殺しません。あなたは次のバイロン国の王ですから」
「ふん、リアムを望む声の方が大きい」
「周りの声は、少し聞く程度で流してたらいいと思うんです。本当に王になりたい者がなればいい。少しでもなりたくない気持ちがある者がなったら、民に失礼でしょう?そうは思いませんか?」
「リアムは…弟は、王になりたくないのか?」
「それはリアムにしかわかりません。一度、二人でじっくりと話し合ってみてはいかがですか。そしてぼ…私も、もうすぐ王の座を降りるつもりです。本当に玉座を望み、国のことを思ってくれる者に譲ります」
「なんだと?」
「はあっ?俺は聞いてないっ!」
クルト王子が驚いた顔で疑問を口にする。
その声をかき消すように、いつも冷静なラズールが怒鳴った。
僕は困ったように笑い、ラズールを見る。
ラズールが取り乱しながら叫ぶ。
「そのようなことを言い出して、なにを考えているのですかっ!俺にはわかるっ。絶対によからぬことを考えている!」
「ラズール落ち着いて。後でおまえに話すつもりだったんだ。ちゃんと話すから」
「俺は許しませんっ」
「ラズール」
自分でも驚くほどの冷たい声が出た。
ラズールの身体がビクッと揺れる。
僕はラズールに近づき、青ざめた端正な顔を見上げた。
「おまえは誰に向かって許せないと言ってる?僕は王だよ。おまえは王に意見ができるのか?」
「いえ…申しわけありません」
「今は少し静かにして」
「はい…」
唇を噛んで、ラズールが僕から目を逸らす。
僕達の様子を眺めていたクルト王子が、再び疑問を口にした。
「貴様がなにを考えているのかなど、微塵もわからぬし興味もないが、一つわかったことがある」
「なんですか?」
「貴様は…男だ。バイロン国で会った時の姿が、真の姿だな?そして今朝会った時の女装姿はウソだ。似合っていたから少しも不審に思わなかったぞ」
「…どうしてそう思うのですか」
「ふっ、先ほどからずっと、僕と言ってるじゃないか。ウソをつき通せていない。リアムもこのことを知ってるのか?」
僕は目を閉じて深呼吸をする。そしてゆっくりと目を開けてクルト王子を見つめると「知っています」と深く頷いた。
僕はトラビスの腕に触れて止め、クルト王子の名を呼んだ。
「クルト王子、あなたを殺しません。イヴァル帝国を攻めようとしたり、リアムに毒を飲ませたあなたのことは、嫌いです。だけど殺しません。あなたは次のバイロン国の王ですから」
「ふん、リアムを望む声の方が大きい」
「周りの声は、少し聞く程度で流してたらいいと思うんです。本当に王になりたい者がなればいい。少しでもなりたくない気持ちがある者がなったら、民に失礼でしょう?そうは思いませんか?」
「リアムは…弟は、王になりたくないのか?」
「それはリアムにしかわかりません。一度、二人でじっくりと話し合ってみてはいかがですか。そしてぼ…私も、もうすぐ王の座を降りるつもりです。本当に玉座を望み、国のことを思ってくれる者に譲ります」
「なんだと?」
「はあっ?俺は聞いてないっ!」
クルト王子が驚いた顔で疑問を口にする。
その声をかき消すように、いつも冷静なラズールが怒鳴った。
僕は困ったように笑い、ラズールを見る。
ラズールが取り乱しながら叫ぶ。
「そのようなことを言い出して、なにを考えているのですかっ!俺にはわかるっ。絶対によからぬことを考えている!」
「ラズール落ち着いて。後でおまえに話すつもりだったんだ。ちゃんと話すから」
「俺は許しませんっ」
「ラズール」
自分でも驚くほどの冷たい声が出た。
ラズールの身体がビクッと揺れる。
僕はラズールに近づき、青ざめた端正な顔を見上げた。
「おまえは誰に向かって許せないと言ってる?僕は王だよ。おまえは王に意見ができるのか?」
「いえ…申しわけありません」
「今は少し静かにして」
「はい…」
唇を噛んで、ラズールが僕から目を逸らす。
僕達の様子を眺めていたクルト王子が、再び疑問を口にした。
「貴様がなにを考えているのかなど、微塵もわからぬし興味もないが、一つわかったことがある」
「なんですか?」
「貴様は…男だ。バイロン国で会った時の姿が、真の姿だな?そして今朝会った時の女装姿はウソだ。似合っていたから少しも不審に思わなかったぞ」
「…どうしてそう思うのですか」
「ふっ、先ほどからずっと、僕と言ってるじゃないか。ウソをつき通せていない。リアムもこのことを知ってるのか?」
僕は目を閉じて深呼吸をする。そしてゆっくりと目を開けてクルト王子を見つめると「知っています」と深く頷いた。
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