銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 話し終えた頃に、土を踏む音が聞こえて振り向くと、一人の騎士が立っていた。
「何用だ」と問うトラビスに「ラズール様が心配しておられます」と騎士が頭を下げる。
 どうやらラズールに命じられて、僕を捜しに来たらしい。

「アイツは心配性だな。少しも待てないのか」
「それだけ僕のことを想ってくれてるんだよ。生まれた時から傍にいるからね。あ、君は先に戻っていいよ。ラズールにすぐ戻るって伝えて」
「かしこまりました」

 騎士が再び頭を下げて、来た道を戻っていく。
 トラビスが立ち上がり、僕の手を引いて立たせてくれる。そして上着とマントも着せてくれる。
 僕はトラビスに手を引かれながら、ラズールの待つ天幕へと戻った。
 ラズールは、とても冷たい表情をしていた。いつも冷たい顔だけど、更に冷たくて怖い。冷たい目で睨まれたトラビスは、僕の背中に手を添えて、ラズールの前まで押し出した。
 僕は小さく息を吐くと、「遅くなってごめん」と謝る。

「本当に。森の中へ入って行ったと聞いて、とても心配しましたよ」
「でもトラビスが一緒だし、大丈夫…」
「油断してはなりません。バイロンの兵は国境の向こうまで退却しましたが、一人二人残って潜んでいるかもしれません」
「…そうかなぁ」
「そうです。あなたは味方にも敵にも甘すぎる。俺がずっと傍にいますが、気をつけてください」
「…うん、わかったよ」

 ずっと傍にいる。
 幼い頃から、繰り返し僕に約束してくれた言葉。だけど、ごめんね…ラズール。僕は傍にいられない。バイロン国に行く前に、そのことをラズールに告げなければいけない。
 ラズールのことを考えて寂しくなってしまった。それが顔に出ていたらしい。
 すぐにラズールが気づき、手を伸ばしてフードの上から僕の頭を撫でる。

「どうしましたか?やはり疲れたのではないですか?レナードの天幕へ戻りましょう」
「うん…」

 僕は素直に頷いて目を閉じた。
 ラズールの手の感触が好きだ。嬉しい時も辛い時も悲しい時も、いつも頭や背中を撫でてくれた。この優しい手で撫でられることがなくなるのは、寂しいなぁ。
 
「兵は残っていない」
「え?」

 いきなり声がして、顔を上げる。
 柱にくくり付けられたクルト王子が、喋ったのだ。
 トラビスが、警戒しながらクルト王子の前に立つ。

「なんと言いましたか?」
「だから、バイロン兵は残っていないと言った。全て国境の向こう側へ引き上げている」
「なぜわかるのですか」
「ゼノがジルに命じていただろう。ジルとはリアムの忠実な部下だ。堅苦しいヤツだ。卑怯なマネはしない」
「では真実、今イヴァル帝国に残っているのは、あなたとゼノ殿だけなのですね」
「そうだ。しかもゼノもリアムの忠実な部下だ。俺は今、味方が誰もいない状況下にある。どうする?殺すには絶好の機会だぞ?」

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