銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 しかしすぐに涙を拭って、顔を上げる。

「情けないところをお見せして、申しわけありません…。リアム様に仕えていたジルや他の者達も、クルト王子に脅されて国境まで進軍してきた軍の中にいます」

 そういえば先ほど、ゼノが天幕の外に向けてジルと呼びかけていた。確か僕の腕が斬られた時に、僕が魔法を使ってしまった騎士の名だ。
 でもゼノは、勝手にジルに言ってバイロンの兵を国境まで引かせてしまったけど、大丈夫なの?
 そう不安に思って聞いた。

「ゼノ、クルト王子の許可なく兵を引かせてたけど、そんなことしてリアムに何かされない?」

 少しだけ考えて、ゼノが「大丈夫です」と頷く。

「リアム様が倒れた直後は、どのような毒を飲まされたかわかりませんでしたし、解毒薬もすぐにほしかったので、リアム様を助けるためにクルト王子の命を聞くと約束したのです。ですが今は、何の毒を飲まされたかわかってます。リアム様の叔父上に連絡を取って、よりよい薬を入手していただくようお願いしてます。叔父上のラシェット様が王城に行き、なんとかリアム様を牢から出すとも仰ってくれてますので、この先はクルト王子の言いなりにはなりません」
「そうなの?それならよかった…」

 僕は安堵の息を吐いた。
 叔父上とはきっと、リアムと二人で見た、あの美しい湖がある土地をおさめている方だ。まだお会いしたことはないけど、リアムの話しぶりから素晴らしい方だとわかる。どうか、リアムを助けてほしい。牢から出して、ゆっくりと養生させてあげてほしい。
 僕はしばらく考えて、ラズールを呼んだ。

「ラズール」
「はい」
「クルト王子を返す代わりに、リアムを寄越せというのは…」
「ダメです」
「どうして?」
「そんなことをしては戦になりますよ?第一王子は屈辱を忘れません。きっと仕返してやると攻めてきます。それに今の話を聞く限り、第二王子は罪人として扱われている。バイロンの罪人をイヴァルが引き取ったとなると、攻め込まれるよい理由になると思いますが」
「じゃあ、こういう手は使いたくないけど、クルト王子を殺されたくなければリアムを使者としてイヴァルに来させよというのは?」
「無駄です。バイロンの王は、第一王子を見殺しにすると思います。敵に捕まるような情けない王子など捨て置かれると思います。そうだな?ゼノ殿」
「ラズール殿の言う通りです。王は王子達に愛情がない。どちらかの王子がいればそれでいいと思っています」

「そんな…」と僕は胸を押さえた。

 
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