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「あ…」と口を開いて、固く結ぶ。それを数回、目を伏せながら繰り返した後に、ゼノがまっすぐに僕を見つめてきた。
「フィル様…あなたが国に戻られてから、しばらくの間、リアム様は放心状態でした。しかし十数日経って、トラビス殿からフィル様が目を覚まして起き上がれるようになったと手紙をいただいて…ようやくリアム様もいつも通りに戻られたのです」
「トラビスめ…余計なことを」
ラズールが小さく文句を言ってる。
僕は心の中でトラビスに感謝しながら「続けて」とゼノを促す。
ゼノは頷いて再び口を開いた。
「クルト王子は、フィル様がイヴァル帝国の女王だということに薄々気づかれていました。女だと信じていましたが。なので逃げられたことが相当悔しかったのでしょう。リアム様が協力したことにも気づき、王に進言したのです。王はリアム様に激怒されました。…それで、リアム様は拒否されたのですが、俺とジルがリアム様を守るために、リアム様があなたの腕を斬り落としたことを話したのです…申しわけありません」
「謝ることはないよ。あれは、そうなるように僕が仕向けたんだから。それで王の怒りはおさまったの?」
「はい。ただ傷まで負わせたのに逃げられたのが情けないと、リアム様に謹慎を命じられました。リアム様は王城の自室にしばらくこもっておられました。その間にクルト王子が、此度のことを画策したのです。イヴァル帝国の女王をバイロン国の第一王子である自分の妃にすれば、労せずしてイヴァルが手に入るなどと安易でバカなことを…!」
ゼノが拳を地面に突き立てる。今回のこと、リアムもゼノも反対してくれていた。そのことが知れて嬉しい。
僕はゼノの肩に触れて「怒ってくれてありがとう」と微笑んだ。
ゼノが微かに首を振る。
「いいえ…俺は無力です。フィル様の耳に入る前に止めたかったのに、結局は使者を出されてしまった。さぞご不快な思いをされたでしょう…」
「驚いたけど、僕の身体の不吉な痣を見せればクルト王子から断るだろうと思ってたから…大丈夫だよ。それに、リアムも反対してくれたんだってね」
「当然です!リアム様はフィル様と将来の約束をされてるのですから!」
「うん…」
よかった。記憶を失った時に、婚姻の約束も忘れていただろうから、思い出してなかったらと少しだけ不安だったんだ。
「フィル様…あなたが国に戻られてから、しばらくの間、リアム様は放心状態でした。しかし十数日経って、トラビス殿からフィル様が目を覚まして起き上がれるようになったと手紙をいただいて…ようやくリアム様もいつも通りに戻られたのです」
「トラビスめ…余計なことを」
ラズールが小さく文句を言ってる。
僕は心の中でトラビスに感謝しながら「続けて」とゼノを促す。
ゼノは頷いて再び口を開いた。
「クルト王子は、フィル様がイヴァル帝国の女王だということに薄々気づかれていました。女だと信じていましたが。なので逃げられたことが相当悔しかったのでしょう。リアム様が協力したことにも気づき、王に進言したのです。王はリアム様に激怒されました。…それで、リアム様は拒否されたのですが、俺とジルがリアム様を守るために、リアム様があなたの腕を斬り落としたことを話したのです…申しわけありません」
「謝ることはないよ。あれは、そうなるように僕が仕向けたんだから。それで王の怒りはおさまったの?」
「はい。ただ傷まで負わせたのに逃げられたのが情けないと、リアム様に謹慎を命じられました。リアム様は王城の自室にしばらくこもっておられました。その間にクルト王子が、此度のことを画策したのです。イヴァル帝国の女王をバイロン国の第一王子である自分の妃にすれば、労せずしてイヴァルが手に入るなどと安易でバカなことを…!」
ゼノが拳を地面に突き立てる。今回のこと、リアムもゼノも反対してくれていた。そのことが知れて嬉しい。
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ゼノが微かに首を振る。
「いいえ…俺は無力です。フィル様の耳に入る前に止めたかったのに、結局は使者を出されてしまった。さぞご不快な思いをされたでしょう…」
「驚いたけど、僕の身体の不吉な痣を見せればクルト王子から断るだろうと思ってたから…大丈夫だよ。それに、リアムも反対してくれたんだってね」
「当然です!リアム様はフィル様と将来の約束をされてるのですから!」
「うん…」
よかった。記憶を失った時に、婚姻の約束も忘れていただろうから、思い出してなかったらと少しだけ不安だったんだ。
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