銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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「どうですか?不気味でしょう?」

 クルト王子がゴクリと唾を飲み、手を伸ばしかける。
 僕は胸の部分がめくれないように手で押さえながら振り向き、首を傾けて微笑んだ。

「ああ、気をつけてくださいね?この痣に触れると、伝染るかもしれませんよ」
「なにっ…?」
 
 クルト王子が慌てて手を引っ込める。
 騎士がクルト王子を庇うように前に出てきた。
 ゼノは動かずに僕を見つめている。
 僕はゼノにだけわかるように、少しだけ目を伏せた。
 ああ…思い出した。リアムはこのことを知ってる。痣が出た瞬間を見ている。それでも僕を愛してると言ってくれた。でも普通はこんな痣を目にしたら怖いと思う。
 
「フェリ殿…」
「はい」

 クルト王子が、騎士の背後に隠れて後ずさりながら口を開く。

「こちらから申し出ておいて悪いが…この話はなかったことに…」
「なぜですか?この痣がおぞましいからですか?」
「いや…」
「ふふっ、その通りなのですから、肯定してもらっても構わないですよ」
「すまない…」
「謝らなくても大丈夫です。あなたの申し出は最初から聞かなかったことにします。ですから、今すぐに軍を引き上げてください」
「それとこれとは別の話だ」
「王城に戻ってください。戻って国政に邁進してください。引かないのであれば、我々は全力で戦います。お互いに無駄な血は流したくないでしょう?」
「くっ…、父上に相談する」
「よろしくお願いします」

 クルト王子に向かって頭を下げる。
 僕が顔を上げた瞬間、クルト王子の前にいた騎士が剣を抜き、突き出してきた。
 咄嗟にラズールが僕を突き飛ばしたが間に合わず、僕の胸に痛みが走った。
 地面に倒れて胸を押さえる。やはり呪いの効力が切れたのだろうか。剣が僕の身体を貫いたのなら、もう僕が王である必要はないのに。
 トラビスが騒ぐ声を聞きながら、胸を押さえていた手のひらを目の前に持ってくる。

「ああ…」

 思わず落胆の声がもれた。
 騎士が突き出した剣は、僕の身体に刺さってはいなかった。手のひらに血はついていなかった。胸の痛みは、打撲による痛みだけだ。

「大丈夫ですか?」

 ラズールが僕を支えて起こし、肩にマントをかけた。
 顔を上げると、トラビスが一人でクルト王子と騎士を拘束している姿が目に飛び込んできた。
 僕は座ったまま、疑問を口にする。

「あなたの命令ですか?クルト王子…」
「そうだ…」
「どうして」 
「どうして?呪われたあなたの姿は、まるで魔物みたいじゃないか。この先、我々にもどんな災いが降りかかるかわからないっ」
「そう…」
「我が王になんたる無礼なふるまい…!」

 俯いた僕を背中から抱きしめて、ラズールが怒鳴った。
 

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