銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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「ダメだ…できない。それはしてはダメなんだ」
「なんでっ」

 ネロが声を荒げて怒った。
 僕のために怒ってくれてるのかな。だとしたら嬉しいな。
 僕は止めるネロの手を優しく押して、上半身を起こした。そしてシャツのボタンを数個外すと、前をはだけさせた。

「何して…えっ?」

 手を口に当て、ネロが目を見開いている。
 そうだ、それがこの痣を見た人の正しい反応だ。ラズールやトラビスが僕の痣を見ても怖がらないから、むしろキレイだなんて言うから麻痺してた。この痣が僕の身体に傷をつけることを許さないから、勘違いしてた。
 間違えてはいけない。これは僕が呪われた子だという証。これを見た人はおぞましく思うのだ。そしてこの痣は、僕の身体に傷をつけることを許した。痣で覆われた左腕を、リアム王子が斬り落とすことを許した。
 でも…。このことがバレるとラズールに怒られるのだけど。本当に痣がある箇所を傷つけることができるのなら、呪いの効力はなくなったのではないか。僕はもう、呪われた子ではないのではないか。そう思って、ラズールが傍にいない時に脇腹を刺してみた。
 結果、刃は刺さらなかった。ゆっくりと押してみても、勢いよく突き出してみても、短剣の鋭い尖端は、肌を突き破らなかった。

「なんだ…呪われたままじゃないか…」

 そう呟いて、僕は泣いた。両手で顔を覆い唇を噛んで、声が外に漏れないようにして泣いた。
 呪いがなくなったのなら、この重圧から逃げたかった。僕は王にはなりたくない。王の器じゃない。王となった姉上の影で、姉上の手伝いができればそれでよかった。姉上が僕をいらないと言うのなら、どこかの田舎で農夫をしながら暮らしてもよかった。
 でもこの国の王族は、もう僕しかいなくて、僕が王になるしかない。国のためにやれる限りのことを頑張るしかない。

「これは…どうしたんだ?」

 ネロの声に飛んでいた意識が戻る。
 僕はネロと目を合わせて少しだけ笑った。

「母上が亡くなった頃にね、急に現れたんだ。これは呪いの痣。僕が呪われた子だという印…」
「呪われた…。フィルが双子で男だからか?」
「そう。この国では双子は不吉で、王子はいらないから」
「…くっだらねぇ!そんなアホな言い伝えがあってたまるかっ」

 いきなりネロが大きな声を出したので、驚いた。驚いて、ポカンとネロの顔を見つめた。
 ネロが手を伸ばして痣に触れた。少し冷たい手に、僕の身体がピクンと揺れた。

「気持ち悪く…ないの?」

 僕の問いに、痣を見ていたネロの目線が僕の顔に移る。
 ネロは僕の顔をジッと見つめた後に、明るく笑った。
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