銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 トラビス達が国境に着いたと報せを受けてから、更に五日経った。やはりバイロン国に動きはなく、膠着状態が続いていると、朝と夜に早馬が状況を運んでくる。
 バイロン国の狙いはなんだろうか。こちらからの攻撃を待っているのか。
 職務をこなしながらも、悶々と考え込んでしまう。しかしネロにもらった耳栓のおかげでよく眠れているらしく、頭の中に靄がかかったような感じが、少し薄らいでいた。


 今日も朝から職務をこなし、昼からラズールに剣の稽古につき合ってもらっていた時だった。稽古場の広場に、騎士が一人飛び込んできた。
 ラズールが眉間にシワを寄せて「何ごとだ!」怒鳴る。
 よく見ると騎士はトラビスの部下で、六日前にトラビスと共に国境に向かったはずだった。肩を上下させて荒い呼吸を繰り返し、よほど急いだのか頬には木の枝で作ったすり傷ができている。
 僕は両手で握りしめていた剣を右手に持ち替えて、僕の前で片膝を着く騎士に声をかけた。

「君は…トラビスと国境に向かったよね?どうしたの?使いの者じゃなく、どうして君が来たの?」
「はっ…!一大事であるから俺が信頼しているおまえが行けと、トラビス様に命じられました…っ」

 ひと息に話して、また荒い呼吸を繰り返している。
 僕がラズールを見ると、ラズールが騎士に水を渡した。

「これを飲め。落ち着いてから話せ」
「申しわけございませんっ…」

 騎士は、ラズールが差し出したコップを受け取り、一気に飲み干した。そして何度か大きく深呼吸をすると「もう大丈夫です。ありがとうございます」と頭を下げた。
 僕は剣を鞘にしまいながら「続けて」と騎士に言う。
 僕の声にこちらを見た騎士の顔が、ひどくうろたえているように見える。

「君はいつ国境を出発したの?」
「昨日、日が落ちてすぐですっ」
「えっ!一日もかけずに戻ってきたの?それは疲れるよ。もう少し休憩を…」
「いえ!緊急にて休んでいる暇はありません!」
「…わかった。では教えて」
「はい。昨日の日が落ちる前に、バイロン国より国境を越えて使者が来ました。その使者がとんでもないことを言い出したのです!」
「攻め込まれたくなければ国を開け渡せと?」
「いえ…。イヴァル帝国の女王を、バイロン国のクルト第一王子の妃に迎えたい…と」
「…え」
「は?そんなこと絶対に許さん!」

 僕の驚きの声は、ラズールの怒声にかき消された。
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