銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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「どうしてダメなんだ?」

 厳しい声で聞いてみるけど、理由はわかっている。先の戦で僕は捕まった。バイロン国に連れて行かれ、大怪我をして死にかけた。二人が止める気持ちもわかる。だけど僕は安全な城の中で待つだけの、弱い王にはなりたくない。
 ラズールが膝を折り僕の左手に触れる。

「先の戦でバイロン国の捕虜となり、大怪我をしたこと、お忘れですか?俺はもう、あなたを危険にさらしたくありません」
「でも僕は、皆の前に立たなければ…」
「王は大局を見なければなりません」

 レナードの言葉に、僕はハッとする。

「フィル様は、いよいよ戦が大詰めを迎えるその時に、戦場に出向いていただきます。その方が皆の士気も上がりますから」
「でも…」
「イヴァル帝国は、あなたを失えないのです。どうか、目先のことだけではなく、先のことを考えてくださいますよう」
「…わかったよ」

 僕が渋々納得すると、レナードは頷いた。
 ラズールも立ち上がり、僕の肩に手を添える。

「城にいても、するべきことはたくさんありますよ。さあ、そのような顔をなさらずに。あなたを玉座に座らせたのに、未だ納得のいっていない様子の大宰相や大臣達になめられてしまいます。堂々としていてください」

 会議の間へと進みながら、ラズールが優しく話しかけてくる。
 僕は「そうだね」と頷くと、少し俯いていた顔を上げた。


 会議の結果、前回の二倍の軍を出すことに決まった。第一軍がトラビス、第二軍がレナードが率いる。準備ができ次第、順次出発をする。
 トラビスが、バイロン国の内情を知っているネロを連れて行こうと声をかけたが、ネロは僕と城に残ることを望んだらしい。
 それを聞いて、ラズールが不快をあらわにした。

「アイツを見張るのはおまえの役目だろう。無理やりにでも連れて行け」
「ネロは今や俺達の味方だ。城に残りフィル様を守ると言ってくれている。それに、戦場に放り出していい人物ではないだろう?」
「ふん、イヴァルにとって大切なのはフィル様だ。アイツのことなど知るか」
「おまえなぁ…」

 このままだとラズールのネロに対する悪口が止まらないと思った僕は、ラズールをなだめてネロが残ることを許した。
 ラズールは、最後まで納得がいかない様子で険しい顔をしていたけど。
 大宰相や大臣達は、ネロのことをどう思っているのかわからない。だけど客人として城に滞在することを了承しているということは、ネロが語った出自を信じているのだろう。
 僕もネロの出自を信じる。証拠の品も見せてもらった。本物だと思う。だからこそネロともっと話をしたいし、協力できることがあればしてやりたい。
 そんな僕の態度も、ラズールは気に入らないのかもしれない。


 
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