銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 用意されたお茶とお菓子が全て無くなった頃、風が出てきて僕が震えたために、ラズールに「戻りますよ」と言われて東屋を離れた。
 城の入口でトラビスとネロと別れ城内を部屋に向かって歩いていると、くしゃみが出た。
 すかさずラズールが、肩に軽くかけていたショールで僕をしっかりと包む。

「冷えたのではないですか?熱は…」
「大丈夫だよ。鼻がこそばゆかっただけだから」

 額に触れたラズールの手が冷たくて、思わず肩を揺らす。
 無表情なラズールの顔が険しくなり、僕の左手を握りしめた。

「なに?」
「少し熱いですよ。それに手がこんなに冷たい。早く部屋に戻って湯につかりましょう」
「今から?」
「今から。身体を温めてお休みになってください」
「もうっ、大丈夫だって!そんなに甘やかすから、いつまでたっても体力が戻らないんだと思う」
「…申しわけありません。ですがフィル様のことが心配で」

 ラズールが少し寂しそうな顔をする。僕が反発するようなことを言うと、いつもこんな顔をする。僕はラズールのこの顔に弱い。
 僕の左手を握るラズールの手に右手を重ねて、ラズールの顔を見上げた。

「わかったよ。部屋で休むけど、書類に目を通すくらいはするよ。僕は王になってから、まだまともに役目を果たしてないからね」
「…ほどほどに…ですよ」
「やれるだけやる」

 僕を心配してくれることは嬉しいけど、過保護すぎる。ラズールに気づかれないよう、小さく息を吐き出していると、後ろから来たレナードに呼び止められた。
 僕とラズールは、足を止めて振り向く。
 レナードは、僕の前で片膝をつき軽く頭を下げたが、繋がれた手を見て苦笑いを浮かべた。

「フィル様、体調はいかがですか?」
「もう大丈夫。元気だよ。これはラズールが過保護だっていう証…」
「…フィル様も大変ですね」
「そうなの。慣れてるけどね。ところで何かあった?」

 僕はレナードに立つように言う。
レナードはゆっくりと立ち上がると、真剣な目で僕を見つめた。

「先ほど国境を警備している者から連絡が来ました。三ヶ月前、フィル様が逃げ帰ってきた後すぐに、バイロン国が再び攻め込んでくると思ってましたが、動きがありませんでした。この三ヶ月の間も大人しかった。裏でなにか画策しているのではと疑ってましたが、探らせてもそのような様子はなかった。ですからもう、イヴァル帝国と戦をする気は無いのかと思ってたのですが」
「バイロン国が動いたのか?」

 ラズールの厳しい声が廊下に響く。
 僕の胸が激しく脈打つ。僕の左手を斬り落とした第二王子がいるバイロン国。憎むべきリアム王子。ぼんやりとしか顔を覚えていないけど、輝く金髪と紫の瞳の背の高い人だった…。あれ?腕を斬り落とされた時は、ひどい雨だった。雨の中で、しかも薄れる意識の中でしか王子を見なかったのに、どうして輝く金髪だと思った?バイロン国に捕らわれてからの記憶も曖昧なのに。でもそうか。きっと、捕らわれてから太陽の光を浴びる第二王子を見たことがあるのだろう。僕の冷たい印象の銀髪と違って、とても明るい印象の金髪を持つリアム王子。来るなら来ればいい。僕が先頭に立って迎え撃ってやるから。
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