252 / 451
21
しおりを挟む
「はあ…おまえなぁ」
トラビスが呆れたように息を吐き出す音がする。
ネロは無言だ。また何を考えてるかわからない顔をしているのだろうと振り向くと、険しい表情で俺を見ていた。
我が国に対してひどいことをしたおまえに、そのような目で見られるのは不快だ。俺は言えと言われたから言ったまで。嫌なら聞かねばいいのに。
「戻る」とだけ言って二人の横を通り過ぎようとする。しかしトラビスに腕を引かれた。
「ちょっと待て!ようやくリアム王子がフィル様のことを思い出したのに、なぜそんなことをするんだっ」
「おまえは、あの王子がやったことを許せるのか?フィル様の腕を斬り落としたんだぞ。俺はもう二度とフィル様を王子と会わせたくない。だがフィル様に王子への想いがある限り、いつか必ず会いに行かれる。ならばいっそのこと、嫌いにさせればいい。もし会ったとしても、憎い相手だと思えば躊躇なく斬ることができるだろう」
「しかしっ…それではフィル様のお気持ちはどうなる!」
「フィル様にとっても、あの王子への想いは忘れた方が幸せだ。覚えていても辛いだけだからな」
俺はトラビスの手を振り払うと、さっさと扉を開けて外に出た。
後ろで尚も何か言っていたが、扉を閉めて声を遮断する。
心の中で、おまえはネロの世話をしてろとトラビスに悪態をついて、足早にフィル様の部屋へと向かう。しかし途中で、厨房へと行き先を変えた。
フィル様は目覚めたのだ。栄養剤ではなく、きちんとした食事で体力を戻して頂かなければ。
フィル様の部屋へ戻ると、フィル様はベッドから降りて窓の外を眺めていた。扉が開いた音に振り向き、俺を見て「ラズール」と微笑む。
俺の胸が苦しくなって慌てて窓へと走り、フィル様の両手を握りしめる。
「起きて大丈夫なのですか?」
「うん…。僕は何日寝てたのかな?立つ時に足に力が入らなくて大変だったよ」
「フィル様は十日間、意識が戻らなかったのです。だから無理をしてはダメですよ」
「十日も?腕を斬られただけなのに?」
「大怪我だったではありませんか。それに雨に打たれて体も冷えてましたから、熱が出てしまったんです」
「そうか…僕は弱いね。もっと強くならなきゃ。ラズール、また鍛えてくれる?」
「もちろんです」
深く頷く俺に、フィル様がまた笑顔を見せる。
ずっと、こんな風に笑っていてほしい。俺の至宝。これからは俺が守ります。
フィル様が外を見て目を細める。
「ラズール、外に出たい」
「まだダメです。外は寒い。もう少し暖かくなりましたら、いくらでも出ていいですよ。ここの庭は、たくさんの花が咲きますから」
「わかったよ。へぇ…どんな花があるんだろ?楽しみだな」
「はい」
その時、扉の外から声がした。使用人が料理を運んで来たようだ。
俺はフィル様にそう告げて、フィル様の手を引き椅子に座らせた。
トラビスが呆れたように息を吐き出す音がする。
ネロは無言だ。また何を考えてるかわからない顔をしているのだろうと振り向くと、険しい表情で俺を見ていた。
我が国に対してひどいことをしたおまえに、そのような目で見られるのは不快だ。俺は言えと言われたから言ったまで。嫌なら聞かねばいいのに。
「戻る」とだけ言って二人の横を通り過ぎようとする。しかしトラビスに腕を引かれた。
「ちょっと待て!ようやくリアム王子がフィル様のことを思い出したのに、なぜそんなことをするんだっ」
「おまえは、あの王子がやったことを許せるのか?フィル様の腕を斬り落としたんだぞ。俺はもう二度とフィル様を王子と会わせたくない。だがフィル様に王子への想いがある限り、いつか必ず会いに行かれる。ならばいっそのこと、嫌いにさせればいい。もし会ったとしても、憎い相手だと思えば躊躇なく斬ることができるだろう」
「しかしっ…それではフィル様のお気持ちはどうなる!」
「フィル様にとっても、あの王子への想いは忘れた方が幸せだ。覚えていても辛いだけだからな」
俺はトラビスの手を振り払うと、さっさと扉を開けて外に出た。
後ろで尚も何か言っていたが、扉を閉めて声を遮断する。
心の中で、おまえはネロの世話をしてろとトラビスに悪態をついて、足早にフィル様の部屋へと向かう。しかし途中で、厨房へと行き先を変えた。
フィル様は目覚めたのだ。栄養剤ではなく、きちんとした食事で体力を戻して頂かなければ。
フィル様の部屋へ戻ると、フィル様はベッドから降りて窓の外を眺めていた。扉が開いた音に振り向き、俺を見て「ラズール」と微笑む。
俺の胸が苦しくなって慌てて窓へと走り、フィル様の両手を握りしめる。
「起きて大丈夫なのですか?」
「うん…。僕は何日寝てたのかな?立つ時に足に力が入らなくて大変だったよ」
「フィル様は十日間、意識が戻らなかったのです。だから無理をしてはダメですよ」
「十日も?腕を斬られただけなのに?」
「大怪我だったではありませんか。それに雨に打たれて体も冷えてましたから、熱が出てしまったんです」
「そうか…僕は弱いね。もっと強くならなきゃ。ラズール、また鍛えてくれる?」
「もちろんです」
深く頷く俺に、フィル様がまた笑顔を見せる。
ずっと、こんな風に笑っていてほしい。俺の至宝。これからは俺が守ります。
フィル様が外を見て目を細める。
「ラズール、外に出たい」
「まだダメです。外は寒い。もう少し暖かくなりましたら、いくらでも出ていいですよ。ここの庭は、たくさんの花が咲きますから」
「わかったよ。へぇ…どんな花があるんだろ?楽しみだな」
「はい」
その時、扉の外から声がした。使用人が料理を運んで来たようだ。
俺はフィル様にそう告げて、フィル様の手を引き椅子に座らせた。
2
お気に入りに追加
506
あなたにおすすめの小説
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
左遷先は、後宮でした。
猫宮乾
BL
外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~
乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。
【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】
エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。
転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。
エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。
死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。
「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」
「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」
全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。
闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。
本編ド健全です。すみません。
※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。
※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。
※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】
※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。

愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
目が覚めたら異世界で魔法使いだった。
いみじき
BL
ごく平凡な高校球児だったはずが、目がさめると異世界で銀髪碧眼の魔法使いになっていた。おまけに邪神を名乗る美青年ミクラエヴァに「主」と呼ばれ、恋人だったと迫られるが、何も覚えていない。果たして自分は何者なのか。
《書き下ろしつき同人誌販売中》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる