銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

文字の大きさ
上 下
248 / 451

17

しおりを挟む
 北側の牢屋は、南側に位置する明るく暖かいフィル様の部屋から最も離れている。
 俺はフィル様に栄養剤と水を飲ませて髪をクシでとかし、日に焼けぬように天蓋の布を垂らしてから出てきた。
 ひどく気が向かないが、行かないとまたトラビスが来る。それに面倒なことは早く終わらせたい。なので足早に進み、牢屋の前に着く頃には少し息が上がっていた。

「待っていたぞ。あんなに渋っていたのに気になったのか?」

 牢屋の前で立っていたトラビスが、ニヤリと笑う。
 俺はイラッとして「違う」と即答する。

「面倒なことを早く済ませたいだけだ。案内しろ」
「おまえはフィル様に劣らずキレイな顔をしてるのに…怒ってばかりいる。残念だな」
「うるさい」

 やはり俺はトラビスが嫌いだ。実に下らない内容だったら容赦なく殴ってやる。
 トラビスが鍵を取り出し扉の穴に差し込む。そして扉に手のひらを押し当てると、パンと軽い音がして向こう側へと開いた。

「ネロは魔法の力が強いのだろう?この程度の結界では破られるのでは」
「どれほどの力か知らないが、大丈夫だろう。それに魔法の力を無効化するリングを、ネロの足につけてある」
「そうか」

 建物の中へと入り、まっすぐに進む。この中には、通路を挟んで両側に二つずつ牢がある。主に魔法や剣が優れている者や身分の高い者を収監する。今はネロしか入っていない。
 ネロは、左側の奥の牢にいた。
 トラビスを見て「今日は早いね」と笑う。そしてトラビスの後ろにいる俺に気づくと「あはっ」と声を出して笑った。

「思ってたより早く来てくれたね。大切なフィル様に関わることだもんな」

 頭からすっぽりと布をかぶって、ネロが立ち上がる。
 俺はトラビスに顔を寄せ、小さく囁く。

「おい、俺はなにも驚かないが?」
「まあ待て。とにかく話をしよう」

 トラビスが牢の鉄格子に近寄りネロを呼ぶ。

「ネロ、俺に話した内容を、もう一度話してくれ」
「なに?あんたからは話してないの?」
「おまえがフィル様を目覚めさせることができるという話はした」
「ふーん」

 ネロが奥の壁にもたれて腕を組む。
 トラビスが「こっちに来い」と呼ぶが、来る様子がない。
 俺は小さく息を吐いてトラビスの隣に並ぶ。

「話をしないのなら俺は戻るが」
「話したいけど、あんた殺気丸出しじゃないか。俺は今は魔法が使えない。剣も持ってない。ここで殺されたくない」
「話す内容によっては、ここを出してやってもいい」
「じゃあ話し終えるまで手を出さないと約束しろよ」
「…わかった」

 気をつけなければと思いながらも、俺はネロの話が気になり始めている。
 トラビスが再びネロを呼ぶ。

「ネロ、こちらに来い。そして布を取れ」
「えー?これが無いと寒いんだけど」
「暖かい部屋に移動できるかもしれないんだぞ」
「わかったよ」

 ネロが鉄格子の前に来て、布をバサリと地面に落とした。天井近くの窓から差し込む光の下に立つネロを見て、俺はとても驚いた。
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

左遷先は、後宮でした。

猫宮乾
BL
 外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~

乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。 【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】 エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。 転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。 エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。 死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。 「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」 「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」 全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。 闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。 本編ド健全です。すみません。 ※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。 ※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。 ※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】 ※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

目が覚めたら異世界で魔法使いだった。

いみじき
BL
ごく平凡な高校球児だったはずが、目がさめると異世界で銀髪碧眼の魔法使いになっていた。おまけに邪神を名乗る美青年ミクラエヴァに「主」と呼ばれ、恋人だったと迫られるが、何も覚えていない。果たして自分は何者なのか。 《書き下ろしつき同人誌販売中》

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

処理中です...