銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 ノアの明るい人柄のおかげで、怪しまれずに無事に国境沿いの街に着いた。運良く追手に会わなかったせいもある。
 ゼノ曰く「追手は、馬一頭が走れるような細い道で我々を探しているのかもしれない」だそうだ。
 怪しまれて荷車を止められることがなかったので、思っていたよりも早かった。
 それにフィル様が心配でたまらなかったからよかった。フィル様に振動を与えぬよう、しっかりと抱きしめてはいたが、やはり身体に負担がかかっていたらしく、また熱が上がってきていたから。
 
「ラズール、着いたぞ。フィル様の様子は?」
「身体が熱い…熱が上がってきた」
「なにっ?」

 トラビスが布をめくり上げた所から、俺はフィル様を抱いて荷車を降りた。
 トラビスの後ろにゼノとノアもいて、二人とも心配そうにフィル様を見る。

「ごめん…フィル。俺急いでたから、かなり揺れたよな…」

 ノアが泣きそうな顔で謝ってきた。
 俺はノアの前まで行き、肩に手を乗せる。

「いや、君には感謝している。こんなにも早く無事に国境まで来れたのは、君のおかげだ。フィル様にもよく話しておく」
「えと…ラズール…?さん。フィルに、手紙を出してもいいですか?」
「もちろん。フィル様も喜ばれるよ」
「ありがとうございます…。フィル、がんばれよ」

 ノアがそっと手を伸ばして、フィル様の頭を撫でた。
 活発そうな見た目なのに謙虚な少年だ。どごぞの王子と違って、とても好感が持てる。
 その王子の側近が、俺とトラビスに通行証を差し出した。

「これを。三人分の通行証だ。それと馬を」
「ゼノ殿、感謝する」
「いや、どれだけ謝っても謝りきれないことをしたのは、こちらなので…」
「しかし、ゼノ殿とノアに助けてもらわなければ、無事ではいられなかった。ただ今後のことを考えると、残念でならないが」
「今後…そうだな」
「戦場で会わないことを祈る。ではそろそろ失礼する」
「ああ、フィル様の早い快復を願っているぞ」

 俺は頷き、隣でトラビスが手を出してゼノと握手をする。

「ゼノ殿、あなたともっと話をしたかったが残念だ。緊張感もあったが楽しかった」
「俺ももっと話したかった。またいずれ、戦場ではない所で会おう、トラビス殿」

 トラビスがゼノと手を離し「君もありがとう」とノアに手を上げる。
 俺はトラビスに手伝ってもらいながら、フィル様を抱いたまま馬に乗ると、軽く頭を下げて二人から離れた。
 並んで進むトラビスが、前を向いたまま口を開く。

「国境を越えれば軍がいるのか?」
「ほとんどは戦場で待機しているが、小部隊がこの国境の向こうにいる」
「そうか。ならば安心だな」
「本当は国境を越えればすぐにでもフィル様を休ませてやりたいのだが、高度な治癒ができる安全な場所がない。だからできる限り早く王城に戻るぞ」
「わかった」

 頷くトラビスを横目で見て、腕の中のフィル様を抱き寄せた。
 呼吸が浅く苦しそうだ。熱も高い。今すぐにでも休ませるべきだが、王城が一番安全なのだ。だからもう少しがんばってくださいと想いを込めて、フードからのぞく銀髪にそっとキスをした。
 
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